合同会社すくらむは、令和5年度に障害児通所支援事業所 Ra:SeeSar(ラシサ)を益田市の「新事業チャレンジサポート事業費補助金」を活用して開業されました。現在、約10名のスタッフが重い障がいがあったり、医療的ケアが必要な子どもたちの成長発達を日々の生活を通してサポートされています。合同会社すくらむの代表社員木曽茂雄さんに起業に至った経緯や今の思いについて、教えてもらいました。
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周りの人たちに支えられた27年間
-木曽さんがそもそも福祉の世界に興味を持ったきっかけを教えていただけますか?
木曽さん 僕、高校卒業してすぐに福祉の世界に入ったんですが、実は福祉がやりたくて入ったわけではないんですよ。当時、僕は江の川高校(現:石見智翠館高校)の野球部員だったのですが、監督から同校と同じく江津市にある島根整肢学園(以下、「整肢学園」という)で働くことを勧められました。「性格的にも向いているだろう。」と言われたのもありますが、整肢学園には野球部もあって大好きな野球を楽しみながら仕事ができることも大きな魅力でしたね。あまり人には言えないのですが、そんな軽い気持ちで入社しちゃったんです。(笑)
-それが木曽さんの福祉のスタートだったんですね。
木曽さん そうなんです。ただ最初は、「これは無理だ。」とほんの数日で辞めたいと思いました。でも、野球を通して福祉に対する気持ちに少しずつ変化が起こってきました。整肢学園の野球部は病棟の横にある小さなグラウンドで練習していましたが、利用者さんが練習を見ながら応援してくれていました。本当に嬉しかったです。利用者さんとの距離感が少しずつ近くなり、「その人の障がいを観る」のではなく、「その人自身を観る」「障がいも個性の一部」という障害児者支援の本質的な部分を徐々に理解できていきました。辞めたいって思うことも多かったですが、関わってくださった方々や利用者さん達に支えられたから27年間続けられたんだと思いますね。
出会ってくれた方たちが僕を動かしてくれた
-益田市で起業しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか?
木曽さん 27年間の最後の5年間は益田市の事業所に異動となり、益田圏域の重症心身障害児者さん(以下:重心)への支援を行っていました。保護者さんからお話を伺うなかで、生活全般の解決すべき課題の多さに驚きました。同じ県西部にあっても「遠い」ということで整肢学園の恩恵を受けにくい町であること、重心さんの食事や排泄、余暇や療育活動といった直接的な支援だけでなく、在宅生活を当事者さんや家族さんが無理なく営むために必要なサポート体制や、支援を受けられる社会資源が非常に少ないと感じました。
保護者さんも睡眠時間が2時間という極端に短い方、就労することが困難な状況にある保護者さんもおられました。言葉でいうのは簡単なのですが、非常に苦労されているのを目の当たりにして、「これは何とかしなければ」と思ったんです。でも最初は何とかするのは「自分ではない」と思っていました。

-そこでなぜ、「木曽さん自身が起業しよう」と思ったのですか。
木曽さん 益田圏域の方々と関わる中で、自分が思っている以上に重心さんへの支援にチャレンジできる人というか、深く関わった経験を持つ人が非常に少ないことに気が付いて、「もしかしたら自分なのかもしれない」と思ったことがきっかけですね。でも、直接的な支援に関することは分かっていても「経営」という部分に関しては素人同然ですから、やっていける自信なんて微塵もなかったんです。ですから常に起業に対して気持ちは揺れ動いていました。
そんな時、覚悟と決心につながった出来事がありました。研修会で知り合った県外在住の当事者のお母さんから電話があり、心身の疲労と先の見えない生活に絶望し、自らの命を絶とうとしたと聞きました。そのお母さんが退院したタイミングで会いに行き、お話の中で「益田のお母さんたちでも歯車が狂えばそういったことが起こるから、木曽さんがそういった人たちの支えになって欲しい」と言われました。少なくとも、益田圏域でこのような悲しい出来事が起こらないようにしたいし、誰もが「産まれてきてくれてありがとう!産んでくれてありがとう!」ってお互いに想い合えるようにしたいっていう思いが強くなり起業を決意しました。
このRa:SeeSarという事業所は、整肢学園や他の事業所、益田圏域の当事者や家族など、多くの人々との関わりの中で生まれました。皆さんの想いが起業の原動力となり、支えられて実現できたと感じています。Ra:SeeSarという場所が誰のため、何のために存在していくのかをブレずに大事にしていきたいですね。
自分らしさを人に認めてもらえる、自分自身でも認めてあげること
-そうなんですね。周りの人たちとの出会いや支えがあって起業にたどり着いたということなんですね。ちなみに会社名の「すくらむ」にはどんな思いが込められていますか?
木曽さん まず会社のテーマとして「「障がいの有無に関わらず、誰もが産まれてきてくれてありがとう!産んでくれてありがとう!そう互いに何度も思い合える」を実現する」ということを掲げており、障がいの有無に関わらず、いろんな人が固く結びつき住み慣れた地域で自分らしく生きるという意味合いで付けました。
情熱をもって、更にあったか~い地域創り、そのお役に立ちたい!障がいを持つ方々と地域をつなぐ接着剤的な役割を担える法人になる!という想いもあって「すくらむ」になったんです。

-みんなで手を取り合って、という意味が込められているんですね。
木曽さん そうですね。そういった地域社会になればいいなぁと思いますし、障がいを持つ人たちに限らず、生きにくさを感じる人と社会との距離感をもっと近くしていきたいという願いを込めました。ひらがなにしたのは、柔らかくて小さな子どもたちでも読めるようにとの思いです。
-事業所名の「Ra:SeeSar(ラシサ)」という名前には「自分らしさを尊重する」という意味がふくまれているんですかね。
木曽さん そうですね。法人名や事業所名、このお話になると3日掛かります。(笑)
自分らしさを他者に認めてもらえる、自分自身も自分のことを認めてあげることが、より豊かな人生を送るために大切なことだと思っています。字体に関してもローマ字にしたのも実は他に意味があるのですが、本当に3日掛かるので(笑)
ただ・・・。自分に自信を持って、「僕のらしさって〇〇なんだよ!」ってカッコよく発信できるようになったら素敵だな!と思うんですが、僕自身も恥ずかしくてまだ言えないですねぇ。いつか胸張って言えるように、お子さんたちと一緒に成長していきたいと思います。(笑)

-「自分らしさ」ということを大切しているとのことですが、仕事をするなかで「自分らしさ」を意識していることはありますか。
木曽さん 基本的には事業に関するガイドラインや企業理念に外れていなかったらいろんな考え方があっていいと思っています。「基本は大事!でも型に囚われ過ぎない」。いろんな考え方があっていいし、両極端な発想を結びつける思考と技術があれば「無理って思ってたけど、できちゃったね!」ってことが度々あります。課題や目標をみんなで考えてもらうような組織づくりを心掛けています。たとえ会議で突拍子もない意見が出ても、そこから新しい発想が生まれることもあるので、そういった意見もとても大切にしています。スタッフさんの成長がお子さんの成長に直結しますからね。
-そうなんですね。大きな組織では、規模が大きいため、情報共有や新しい取組を進めるのが難しい場合がありますよね。しかし、小規模事業者だからそういったことがスムーズに行うことができるということですね。
会社倒産の危機
-起業を決意してから現在までで苦労したことはなんですか?
木曽さん やはり経営ですね。整肢学園を退職後、3年間は修行ということで県内の事業所で勤務しましたし、起業してからも他の事業所にアドバイスとかも頂きましたけど、実際にやってみると相当難しかったですね。何度か「本当に会社が倒れるんじゃないか」と思ったこともありましたけど、スタッフの方がお子さんたちと関わる姿を見て「もう何が何でも」という思いで必死にやってきて、その危機を乗り越えることが出来ました。
障がいがある人もない人も幸せに暮らせる、共生社会を
-最後に、今後の目標や展望を教えてください。

木曽さん そうですね。いま利用しているお子さんたちが大人になった時に困らないように居場所創り(生活介護事業)をしたいですね。また、保護者の方も年齢を重ねていくとお家の中での介護などが大変になってきます。家族も休憩できる時間を作りながら在宅生活を可能な限り長く続けられるようにしたいですね。そのために必要になるのが、短期入所事業や24時間対応できる重度訪問介護事業などになります。私も勉強を続けて、時代の流れも意識しながら利用者の方やそのご家族の方たちの想いに寄り添い続けること、想いをカタチにすることを続けていきたいと考えています。
最終的には障がいがある人もない人も幸せに暮らせる、共生社会をこの益田市で実現させたいです!夢は広がるばかりですね。(笑)
-貴重なお話ありがとうございました!
文責:産業支援センター