製造業において、品質を一定に保つことは重要であるが、もし製品の品質がバラバラであれば、購入するのをためらったり、その会社に製造を頼むことをやめたりするのではないだろうか。
島根中井工業の品質保証課に勤める村上 綾さんは、製造現場が不良品を出さない、均一なものづくりができる仕組みづくりを整えている、まさに製造現場の土台を支える一人だ。
そんな村上さんが島根中井工業になぜ入社したのか、そして現在行っている仕事内容やそこでのやりがい、気づき、思いとはどういったものなのでしょうか。
会社の信頼を築く
村上さん わたしの仕事は、品質に関する仕事が基本ですが、お客さまから来るクレームや社内で起こった不具合への対処、不良品を未然に防ぐ活動をしています。
具体的には、お客さまと交わした品質規格を守るため、製品の品質を安定させるために、
各工程で必要な事を基準・手順として決めていくことが役割です。最終的な製品・性能の検査の部署でもありますが、現場で起こったことに対しての原因を探ったり、対処方法を確立することで、不良が再発しないようにしています。そして、原因を追求する中で、再発防止策を立てることにより、次に不良が起こらなければ良いですし、不良が減ると利益につながると考えています。
クレームがあったお客さまに対して素早く対応することで、島根中井工業の印象がよくなるかと思うので、品質保証課の役割を通じ、会社の信頼を築いています。
村上さんの部署の対応が少なくなればなるほど、会社としては良いのだと村上さんはお話しされます。お客さまと交わした品質を守るために、現場と連携しながら、様々な取り組みをされている村上さんの様子が伝わります。
村上さん 一人の人がずっとやっているわけではなく、24時間365日供給しているからこそ、社員全員が品質に関しての認識を持ち、同じように生産できることが大切になります。そのため、工程管理でポイントとなる数値を常に確認しながら、うまくいっていないところの原因を探り、不良につながらないようにと心がけています。これは会社全体として、違和感を見つけることを目標の一つに定めているので、わたし自身も違和感を持ったときには積極的に声を上げるようにしています。
村上さんは、大学進学を機に一度静岡に移り、
その後、就職するにあたり島根に戻ることになったそうです。
村上さん 化学や原材料といった分野、知らない人が多いけれど、ものづくりに必ず必要となる素材を作っているメーカーに就きたいと思っていました。
益田高校に通っていたのですが、進学しか考えておらず、工場や会社に興味を持てていなかったためか、この会社を知らなかったんです。しかし、就職活動をする中で、益田にそういった会社があるのかと思ったのを覚えています。
大学時代に化学専攻だったこともあり、研究開発をやりたくて島根中井工業に入社しました。しかし、同期が本社配属となる中、わたしは品質保証課の配属。最初は、少し落ち込みましたが、品質保証はいろいろな工程や部門に関わりますし、どういった製品があるのか覚えていくことができるので、いつのまにかこの仕事にのめりこんでいきました。
縁の下の力持ちとして、誰かの役に立ちたい
素材メーカーと聞くと、縁の下の力持ちのような存在だと感じる人もいるのではないでしょうか。村上さんがなぜ素材メーカーに興味を持ったのか聞いていく中で、村上さんの大事にしたい思いに触れることができました。
村上さん 就職活動時の企業説明会に行って、「実はこの部品や製品をうちで作っているんですよ」と言われたとき、これを作っている人たちが企業がいなければ成り立たないのだと、思ったんです。一台のパソコン、車を作るには、いろいろな会社が関わっているのだと就職活動をしながら感じていました。そこで、目立たなくてもいいし、会社名ってなんだろうなって。
人の生活に役立っていることは大事にしながらも、前に立っていなくてもいい。知らず知らずのうちに頼られているのがいいなと思うし、誰かの役に立ちたいという思いが自分にとって大事なものでした。
高校時代にリーダーを経験したことで、こうしていこうと引っ張るよりも、いろんな人の声を拾いながら働くほうがあっていると思ったので、係長になった今でもそのスタンスは変わっていません。
村上さん含め10名ほどが働く品質保証課は、冒頭で紹介したように、品質保証の観点において工程の基準・手順を整えたり、不良が起こらない仕組みづくりを行う部署。品質保証課の役割によって、少しずつ社内に変化が生まれているといいます。
村上さん 今までだとスルーされていた違和感も、生産現場から不具合の原因になりそうなこともあがるようになりました。そして、お客さまからの不具合の連絡やクレームは減少傾向にあり、品質保証課としても手応えを感じています。
小さなミスを潰さなければ、大きな不具合や損失につながってしまうので、工程ごとに決められている加工基準と作業手順を守りながら、丁寧に加工・製造していこうと製造現場に伝えています。
仕事も暮らしも自分のペースで
品質保証課は、営業や製造現場の要望、お客さまの要望それぞれを大事にしないといけない部署。板挟みのような状態で働く村上さんは、仕事外の時間でどのようにメンタルケアを行っているのでしょうか。
村上さん 基本的に、音楽を聴いたりテレビを見たりするのが好きなので、そういったことで息抜きしています。また、ずっと会社にいると仕事のことになってしまうので、いろんなところに出かけることで切り替えができたりしています。
工場の人がラフに話してくれるのも、仕事中にリラックスできる要素かもしれませんね。
さらに、暮らしの面では、
静岡で一度過ごしたことで、益田や島根への印象も変わったといいます。
村上さん 基礎研究の分野を学びたかったため、大学は静岡に行ったのですが、最初は県外にいける楽しみや、都心に近いところにワクワクがありました。
しかし、島根を離れてみたことで、地元の良いところに気づき始めましたし、二人姉妹の長女ということもあり、家族の近くで働きたいと考えるようになりました。そして、初任地は西日本がいいなと思い、静岡にいたにもかかわらず静岡で就職活動をしませんでした。
島根の実家って、外に出ると、田んぼや木々が広がっているので静かだなと思っていました。一方で静岡は、静かだけど、近くを高速道路が走っていたり、車の交通量が多かったりと、せわしなかったんです。
自分のペースで仕事や暮らしをしていきたいと思っていたので、大学時代の友人に会えない寂しさはありますが、オンライン上で会えるようになったことで、都心部や静岡にいなくても会える環境が整った気がします。
自分の仕事が、会社の業績につながる
仕事も暮らしも自分のペースを大切に、誰かのために役立ちたいというブレない気持ちを持ち続けている村上さんは、今の品質保証課のポジションにどのようなやりがいを感じているのでしょうか。
村上さん 基準・手順を決めてあげることで、現場がスムーズに対応できることですかね。
工場は24時間動いていて、何かが起きた時に現場の人だけで対処できるようにし、できるだけ上司を呼び出さないようにすることを心がけています。計画を立て、計画通りに行えるように工程を整え、その結果、不良が少なく品質が保たれていることがやりがいにつながっています。
この仕事を始めた当初は、どうやりがいを見出せばいいのかと悩んでいましたが、困っているお客さまへの対応で、営業から「助かりました」と言ってくれたとき、良かったなと思いますし、お客さまから求められている以上のことをしたときに、感謝の気持ちを伝えてもらうと、やってよかったなと感じます。
最後に、村上さんのこれからのビジョンをお伺いしました。
村上さん 益田で暮らしていたいという気持ちもありながら、ずっと支えてくれた吉賀に住む家族を支えていきたいなとも思っています。
会社としては、未然防止の観点を強化し、現場の人やお客さまからのクレームがゼロになるようにしていきたいですし、不良品をゼロに近づけていくことが品質保証課にとって良い状態なので、そういった状態を作り上げていきたいです。
フィルムコーテイングの製造現場からは、性能は数値を追えばいいものの、見た目の判断に関して、曖昧な基準であるために困っているという声もあります。そのため、先手の対応を心がけ、明確な基準を示せるようにし、製造現場だけで仕事がまわっていく状態を整えていきます。
取材:一般社団法人 豊かな暮らしラボラトリー
文責:益田市連携のまちづくり推進課