UIターン者のライフキャリアシリーズでは、県外からUIターンされ益田市でいきいきと生活されている方を紹介し、自分なりの豊かな暮らしについて考える機会をお届けします。今回紹介するのは、一般社団法人豊かな暮らしラボラトリー(ユタラボ)で、サードプレイス益田拠点を運営している生田佑也(いくた・ゆうや)さんです。
カフェで見つけた「人がつながる場」の心地よさ

–本日はよろしくお願いします!最初に、自己紹介とこれまでのご経歴を教えていただけますか?
生田佑也です。福岡県北九州市の出身で、大学までは福岡で過ごし、卒業後はしばらく東京でサラリーマンをしていました。その後、益田にIターンし、現在は一般社団法人豊かな暮らしラボラトリー(以下、ユタラボ)で、主にサードプレイスの運営や、地域で活動したいユース世代のサポートを担当しています。
–現在はサードプレイスの運営をされているということですが、もともと居場所づくりやユース世代の伴走をお仕事にしたいというビジョンをもっていらっしゃったんでしょうか。
いえ、実は、こういう仕事をするイメージは全く持っていませんでした(笑)大学では情報科学を専攻し、卒業後は東京のIT企業でシステムエンジニアをしていました。
–今とは全く違うお仕事で驚きました!その当時はどんなことを考えていらっしゃいましたか?
私が社会人になったのは2020年でした。初めての一人暮らしということもあり、期待に胸を膨らませていたのですが、その春はまさにコロナ禍で緊急事態宣言が発令された時期。出社することなくフルリモートで仕事をすることになったんです。
そんな中で、誰かとつながっていたいという思いが募り、人と関わることや誰かと話すことが好きなんだということを改めて自覚するようになりました。
–コロナ禍で人と合うことを制限されたことが、自分の思いに気づくきっかけになったんですね。思いに気づいてから、何か暮らしに変化はありましたか?
はい。友人の紹介で、あるカフェに足を踏み入れたのが大きな転機となりました。
初めて行ったのは、自分の将来について悩むことが増え、気持ちが沈んでいた頃のことでした。そこのママさんが、簡単に言えば「世話好きなお母さん」タイプで。初対面の私に「〇〇くんのお友だちね、座って座って」と明るく声をかけ、畳み掛けるようにどんどん質問してくれました。聞かれるまま話すうちに、「あそこのお客さん、□□がとっても好きだから、一緒に喋りなよ」って急に店内の他の方を紹介されたりして……気づけば知らない人と趣味の話をしていたんです。最初は驚きましたが、何回も足を運ぶうちにそれが心地よくなっていきました。
そのママさんを介して自然と人がつながっていく空間がとても面白くて、もともと話すことが好きな自分にはぴったりはまったんだと思います。次第に私も、初めて来店されたお客さんに自分から話しかけるようになりました。
–ママさんがコーディネーターとしてお客さん同士を繋いでいたんですね!
そうですね。「誰かと繋がっていたい」という思いを抱き、将来に悩んでいたときに、親身になってくれたのもこのママさんでした。話を聞いてもらううちに、「知り合いが大阪でゲストハウスをやっているから会ってきなよ」と言われたので、長期休暇を取得して行ってみることにしたんです。
そこのゲストハウスのオーナーも面白い人で。私はコーヒーを淹れるのが好きで、どこに行くにも用具一式を持ち歩いていたのですが、オーナーとカフェの話で盛り上がっていたら、「せっかくだから、ここで淹れてみる?」と持ちかけてくれて、併設されたカフェカウンターでコーヒーを淹れることになりました。
最初は単に面白そうだからという理由でやってみたら、コーヒーを淹れながらお客さんと対話をする時間が本当に充実していて。偶然出会った目の前の人と話ができる、自然と言葉が出て、話題がつながっていくということが、こんなに心地いいんだ、と実感したんです。当時は、フルリモートで1日中パソコンと向かい合う生活しかしていなかったので、全く違う世界が広がったような思いでした。
–人と人と結びつけるカフェのママさんと、やりたいことを後押ししてくれるゲストハウスのオーナーさんが、生田さんにとって居心地の良いあり方をみつけるきっかけを運んできてくれたんですね。
そうですね。そうした出会いを経て、「今の仕事を辞めて、旅をしながらこれからのことを考えよう」と決めたんです。不安がないわけではなかったですが、やらない理由を探すのは簡単だし、事実、それまではいろいろな理由をつけてやりたいことをやらずにいたと思います。でもこの時は、「自分のやりたいことを思うままにやってみたい」と強く感じたんです。
–素敵な決断ですね。どんな旅をされたのか、またどのようにしてユタラボと出会ったのかについてお話を聞かせてください。
全国各地にいる学生時代の友人を訪ねていく形で、半年ほどいろいろな場所を転々としました。島根県を訪れることになったとき、松江から益田へと渡り歩き、知り合いがユタラボで働いていた縁で、初めて益田市を訪れ、ユタラボにも足を踏み入れました。
その時もコーヒー用具を持ち歩いていたので、スタッフの皆さんにコーヒーを振る舞って、いろいろとお話を聞かせてもらいました。オフィスの雰囲気に居心地の良さを感じたことと、居場所づくりという事業内容にとても共感したことを覚えています。
そうしたら、代表の檜垣さんから、「新規事業でカフェするから一緒にやってみない?」といきなり誘われて(笑)嬉しかったですが、そのときは旅の途中だったのでもう少し様々なところを見てみたいと持って結論を保留しました。でも、ある程度旅をした末に、「やっぱりここで働いてみよう」と思って。自分も居場所づくりに関わってみたいと思いましたし、「新しく何かを生み出す」とか「自分が一から始める」ということをしてみたいと思ったのも大きかったですね。
「ちょっと立ち寄れる場所」が心を満たす

–ここからはサードプレイスについてお話を聞かせてください。「そもそもサードプレイスって何?」というところから教えていただけませんか?
難しい質問ですね(笑)
辞書的に説明するなら「自宅や学校・職場以外の第3の居場所」で、「自分らしく過ごせる居心地のいい居場所」のような意味合いを帯びていると思います。ただ、私自身そうした場所を、わざわざ「第3の居場所だ」と自覚して利用することはほとんどありません。
例えば、「学校や仕事にも行きたくないし、家にも帰りたくない」というときや、「なんだか物足りないな」と感じたとき、ちょっと立ち寄れる場所があって、なんだか楽しいな」と思えることが積み重なったら、そこが気づけば「サードプレイス」になっている、という感覚が近いのかなと思います。ちょっと寄り道をしたいときに覗くと、ちょっと物足りなさを埋めてくれてる、そこからちょっと1歩踏み出せる。そんな場所なんじゃないかなと。
–なるほど!寄り道で充電して、また歩き出せるイメージですね。
そうですね。立ち寄ってもらったときに、ここで元気になったり他の居場所と出会うきっかけを見つけたりする姿を見られたら、とても嬉しいです。ここで充電をして元気になったことで、他の活動に打ち込めるようになったり、ここで見つけたイベントがきっかけで地域活動のサークルに所属するようになったり……。
もちろん、次の居場所を見つけて来る頻度が少なくなることもありますが、私たちは「いつでも帰って来れる場所がここにもあるよ」とだけ伝え続けていきたいなと思っています。自分にとって必要なタイミングで、またきてくれたら嬉しいなと思います。
–ありがとうございます。具体的には、どのようなことができるんですか?
細かく数え上げるときりがないのですが、主に「遊ぶ」「くつろぐ」「集中する」「見つける」という4つの機能があります。
サードプレイス益田拠点は2階建てのユタラボオフィスを開放する形をとっていて、1階にはカフェがあり、各種ゲームも揃えています。遊んだりくつろいだりしながら交流を深めやすいよう場作りをしています。2階は机やパーテーションが多く、オフィスや図書館の学習スペースのような雰囲気もある空間です。少し静かな場所で集中して読書や勉強、作業をしたい人がよく利用しています。
そして、「見つける」という機能がこのサードプレイスの一つの特色だと思うのですが、地域のお祭り・イベント情報や、お手伝い募集の情報を掲示板にまとめていて、来館した人が地域で活動するきっかけを見つけられるようにしています。地域活動というと少しハードルが高いと思うのですが、私は地域活動は益田の休日の楽しみ方の一つだと思っていて。来館者のニーズに沿って、「こういう企画があるけど、行ってみない?」とユタラボ職員がコーディネートすることもあります。
–様々なニーズに合わせて、多様な利用の仕方があるんですね。来館する人たちは、どういうものを求めてここに集っていると思いますか?
人それぞれですし、一言で表現できるものではないかもしれませんが、あえて言うなら「人とのつながり」でしょうか。「つながる」って、喋って交流する方に目が行きがちですが、同じ空間にただいるだけでも、そこに「つながり」を感じている来館者はけっこういるんじゃないかなと。
20代前後の若い世代が特に多く利用してくれているのですが、ゲームをしたい、勉強をしたい、仕事で頑張ったことやしんどかったことを誰かに聞いてほしい、といったように、ここでの過ごし方は様々です。
ですが、その多様な活動の根っこにある部分は共通しているように感じていて、「誰かと一緒にこの空間を共有していたい」という人が多い印象がありますね。
自分のありたい姿を大切にできる場所を増やしたい

–多様なニーズに合わせて、その人に合わせた場所を作っていっているんですね。その中でも、特に生田さんが大事にしたいと思っているコンセプトはありますか?
自分の「こうありたい」という願いを大事にできるような場所にしていきたいですね。
例えば、自分の生活の大部分を占める時間でうまくいかないことが起こったり、その時間そのものが失われてしまったりすると、不安になってしまうことが多いと思うんです。そんな、本当にしんどいときに話を聞いてくれて、自分の願いを大切にしてもらえる体験があれば、「もうちょっと頑張ってみよう」と思えると思うんです。
私の場合は、先程お話したカフェのママさんが、これからに迷っていた時に、話をじっくり聞いてくれた上で、「生田くんには笑っててほしいんだよね」と伝えてくれたことがすごく印象に残っているんです。自分のことを見ていてくれる人がいるんだ、自分の幸せを願ってくれる人がいるんだ、と思えたら、もうちょっと踏ん張ってみよう、自分のやりたいことをやってみようと決意できたんです。
だから私も、誰かの「〇〇が好き」という思いや、その背景にある、「〇〇を通して、自分はこうありたい」という願いを大切にできる人でいたいなと思っています。
もちろん、そのカフェと同じような場所を再現することはできませんが、私は私なりのやり方で、得意なことを活かしながら、そんな場所を作っていきたいと思っています。
–ありがとうございます。実際にサードプレイス益田拠点に日々関わる中で、気づきや新しい発見はありましたか?
「この場所は生きてるな」と感じる瞬間がとてもたくさんありました。卒業式シーズンには、卒業生たちが集って未来への不安や期待、ここでの再会の約束を口々に語り、そして巣立っていきます。そうかと思えば、あっという間に新たな顔ぶれが来館するようになる。そうやってどんどん人が入れ替わる場所なので、毎年カラーが違うんです。この場所は、その時どきに来てくれている人の思いを汲みながらアップデートされていく。私には、スタッフとか来館者という境なく、この場に集うみんなで場所を作っているという感覚があって、もちろん上手くいかないこともあるんですけど、そのときに集っているメンバーで一緒に作ろう、頑張ろうとできることに、この場所のかけがえない価値を感じています。
–場作りにみんなが関わるからこそ、そのとき立ち寄っている誰もにとって過ごしやすい居場所ができるんですね。
最初は「巻き込まれる」ところから~来館者へのメッセージ~

–これからのことについても教えてください。サードプレイスを通して実現したいビジョンや、楽しみなこと、期待していることを聞かせてもらえませんか?
ユタラボサードプレイス益田拠点の配置換えを行うタイミングで、ここのコンセプトを「日々の暮らしを彩るキッカケ基地」にしよう、とスタッフで決めたのですが、それを私自身が体現し続けていきたいと思っています。生活にちょっとした彩りを添えられるような「何か」との出会い、ここに立ち寄ってくれた人たちには、そんなきっかけを届けていきたいですね。
今後の楽しみとしては、この場所に立ち寄ってくれた人たちがどうなっていくのかを見届けるということがあります。きっかけを届けてきましたが、それからどのような道を歩んでいくのかというところまでは未知の領域ですから。サードプレイスを通して、ここで過ごした人たちの「その先」を、近くで見ていきたいなと思っています。
–ありがとうございます!最後に来館者や、今はまだ来たことがないけれどサードプレイスを利用してみたい、という人たちに対して、メッセージをお願いします。
とにかくこの場所を楽しんでほしいです。そのためにも、ここで出会った人やみつけたきっかけから、何かが始まりそうだと感じたら、どんどん巻き込まれてほしいなと思います。いろいろな人が集まるこの場所で何かが生まれる、何かを作り上げていく、そういう過程がここの醍醐味なのかな、と考えているので。まずはここで楽しんでいる人たちに巻き込まれていって、その中で自分の心が動くものを見つけてほしいですね。
–貴重なお話、ありがとうございました!

文責:益田市連携のまちづくり推進課
文章:一般社団法人豊かな暮らしラボラトリー