益田市内の小中学校、高校を舞台に益田市が実施している、子どもと地域の大人が1対1で対等に自分自身のことを語り合う「対話+(たいわぷらす)」。
「対話+」にはどのような方が参加しているのか、この場で大人が得たものはなにかーー。今回は「対話+」に参加した経験をもつ、高橋建設の社長室室長・佐々木知子さんにお話を聞きました。(一般社団法人豊かな暮らしラボラトリー)
室長を務めるなかで得た「気づき」「やりがい」
-最初にこれまでの経歴を教えてください。
益田東高校を卒業したあと、大阪の関西外国語大学に進学しました。在学中には東京の企業と合同でセレクトショップを立ち上げたり海外留学も経験しました。大学卒業後、地元の益田市に戻り、高橋建設株式会社の商事部に入社。セレクトショップの店長や、グラントワミュージアムショップの店長を務めました。その後、父の病気をきっかけに総務部へ異動し、現在は取締役社長室室長として経営に携わっています。
-社長室室長のお仕事内容を教えてください。
庶務的な事が多いですが人事や広報、新規事業の立ち上げサポートなどにも携わっており、大変さとともにやりがいを感じています。

-室長としてお仕事を続けるなかでの「気づき」や「やりがい」を感じた瞬間を教えていただけますか?
100人を超える社員さんがそれぞれの仕事をしてくれているからこそ会社が成り立っているわけで先ずは日々感謝です。
人事では新入社員の採用業務も行っていますが、初めて携わった時に6人の応募が有り全員が入社してくれた時のことは今でも覚えています。
広報では、機会が有れば何処へでも行って話をすることを繰り返すことで、しゃべり方やアナウンスレベルも上がり、グラントワで行う弊社安全衛生大会(300人規模)の司会もこなすようになりました。今では社外の方からも司会の依頼を受けるようにもーー。このアナウンス力を活かし会社のPRはもとより建設業のすばらしさも伝えていければと考えています。
-高橋建設さんは「女性が活躍できる、主役になれる」ことを目に見えるかたちで発信されていると感じます。
現場の工事看板もそうです。女性技術社員のイメージキャラクターを作成し看板に取り入れてみたりもして、ハードな工事現場の見方を変えられるよう努力しています。
中途入社の女性社員が2級建築施工管理技士の資格を取得してくれています。そういった受験機会を提供することも女性が活躍できる職場づくりにもつながると考えます。
また高橋建設は女性の社会進出とともに、男性も含め性別に関係なく、若い世代から高齢の方まで幅広い年齢の方が活躍できる会社だと思っています。これからは女性だけでなく、多くの人が活躍できる会社であることをPRしていきながら、社員1人ひとりにスポットライトを当てていきたいです。
そして、私が室長を務められているのは現場で頑張ってくれている人がいるからです。だからこそ私は社員の頑張りを伝えることができるのだと感じます。社員がしんどいときに表へ立つこと、社長と社員の間に入ることができるのは室長である私だけです。
「対話+」で出会ったとある男の子

-初めて「対話+」に参加したきっかけを伺ってもいいですか?
益田市で「対話+」の活動がスタートしたときに、当時の室長から“益田市の次世代の育成の取り組み”について知っておいた方が良いのではと、背中を押してもらい、参加することにしました。このような活動に呼んでもらえる会社になりたいという思いもありましたね。
-実際に「対話+」に参加してみて、いかがでしたか?
「対話+」の当日に向けた研修がとても印象に残っています。研修には、小学校からの同級生も参加していました。当日に自分の人生について話すため、ワークシートにこれまでの出来事や感情を振り返った「人生グラフ」を制作して発表するのですが、同級生の発表がとてもすごくてーー。ずっと一緒だった彼女が自分の知らなかった一面を人前で話す姿を見て、悔しいと思ってしまいました。

-悔しいと感じた理由を伺ってもいいですか?
自分もきっと彼女のような経験があるはずなのに、自分の人生を鮮明に話すことができてすごいなと思ったのです。自分の人生を生きている1人の女性が、スポットライトを浴びながら人前で話しているーー。その光景を見て、自分に火が付いたのかもしれません。
-自分の人生を振り返り、自分の人生を人前で発表する……。ご自身の人生について生徒に発表した感想を教えてください。
「自分の人生はしょうもないなぁ」と思いました(笑)。ただ壮大な人生を歩んできたわけではありませんが「人生グラフ」を描き、研修を終えたあと、そもそも人生は良い悪いで語れるものではないこと、それでも自分の人生がだれかに届くかもしれないと思えたことが印象に残っています。
自分の人生が発表を聞いてくれる生徒さんの価値観と合致するかはわかりません。それでも、もし自分の人生に共鳴してくれる生徒さんが1人いて、その1人に思いがちゃんと届いたのであれば自分にも何かができたと思えるーー。そのような気持ちで「対話+」に取り組ませていただきました。
-ありがとうございます。自分の人生を語る中でのご自身の気持ちの変化についてお話しいただきましたが、他にも生徒の話を聞く中でご自身の気持ちの変化があれば教えていただけますか。
「対話+」に参加するときは「高橋建設の佐々木知子」としてご紹介いただいていますが、会社の一員として参加していることは前面に出さない方がいいのかなと考えています。
「自分の会社をPRしよう」と思っていたら格好よく話したくなってしまったり、思わず「うちに就職してよ」と発してしまうかもしれません。「対話+」ではあくまでも佐々木という1人の大人として参加して、その結果「また佐々木さんに会いたい」という人が高橋建設に就職してくれたらいいな、と私の中で線引きをしています。
-そうだったんですね。お仕事について伺ったときも「会社でも社員1人ひとりの活躍をちゃんと伝えたい」という思いをお話しいただきましたが、生徒1人ひとりの話に真摯に耳を傾けることはもちろん、佐々木さん自身も1人の人間として自分の人生を語ることを大切にしているんですね。
-今まで話した生徒さんの中で印象に残っている生徒さんはいますか?
心の内を話してくれた生徒さんがいたことです。部活動や人間関係で困っている男の子が悩みを話してくれて、そのときに「自分の気持ちを仲間や先生にちゃんと話してみようと思う」と話してくれました。
そのあと市内のお店で買い物をしているとレジカウンターの前でその子に再会して、元気に「聞いてください! ちゃんと話せたんですよ!」と言ってくれてーー。今でも印象深い出来事として覚えています。
先生には言えないことがある、背中を押してくれる人が身近にいない……。私が出会ったのはそんな子でした。
-「対話+」の授業では、悩みの解決よりも、生徒に「自分の味方はいるんだな」と感じてもらうことを大事にしています。それが一歩踏み出すことや諦めない気持ちに繋がるのではないかと考えています。佐々木さんの「対話+」での生徒へ向かう姿勢は、そういったことを体現してくださっていて、とても嬉しく思います。
-現在は、佐々木さんは生徒にとって「対話+」がどのような時間になってほしいと思っていますか?
「身近には面白い大人がいるんだよ」「頼ったら一生懸命になってくれる大人がいるんだよ」という気持ちで「対話+」に参加していますね。私も益田に帰ってきてから年上の方に悔しかったこと、理不尽だなと思ったことを話して。すると自分のことを一生懸命に聞いてくれて、励ましてくれた……。
私自身がいい大人と出会えて、真剣に向き合ってくれることを知っていたからこそ、それが「対話+」にも活きているのかもしれません。
-佐々木さんにとっては、「対話+」の授業が「恩送り」のような形になっているんですね。
“未来への道しるべになると思います”

-これまで佐々木さんは「対話+」に何度もご参加いただいているかと思います。そのモチベーションを教えてください。
「対話+」に参加すると元気になるんですよ。イベントが終わった後に“しゃん”とできると言いますか……。
以前、中学校で開催された「対話+」に参加したときは業務が忙しい時期で、しんどい気持ちも抱いていました。ただ生徒さんと話すなか、1人の女の子が精神的につらい日々を過ごしていることを話してくれて、それを聞いた私は泣いてしまい……。
その生徒さんは人前ではたくさん笑顔を見せてくれる子で、10代の女の子が悩みを一生懸命に乗り越えようとする姿を見て感銘を受けました。
「勉強がんばれ!」とか「とりあえず勉強はしておいた方がいいよ」とか、相手を発奮させることを言ったからには、自分も頑張らないといけないですよね。頑張って、生きなきゃいけない。
-生徒が精一杯に生きている姿を見ることで、大人も元気になれる……。生徒のために頑張ろうと学校へ足を運びつつ「対話+」を経て大人側が元気をもらうことは多いですよね。最後に、「対話+」に参加する社員さんへの期待や願いを教えてください。
会社の中では後輩は思っている以上に少なく、とくに地方では1、2人しかいない企業も多いと思います。また部署が異なると話す機会も少なくなってしまいますよね。
ただ私は後輩、若い世代の人に自分の話をすることは大切だと思います。自分より若い人たちに自分の人生を話す。すると相手から質問をしてくれたり、相手も自分のことを話してくれて、再び自分が大人として話す……。「対話+」はそういった機会として非常に貴重だと思います。
もちろん社員を採用することを目的として「対話+」に参加しているわけではありませんが、この場で出会えた生徒さんがいつの日か高橋建設に来てくれて、この会社で再会できたらとても嬉しいです。「対話+」に参加したあと、もしも自分の企業に後輩が入ってきたら、後輩と会話をすることができたり、再び悩みを聞いてあげたりできるーー。そんな風に「対話+」はそのような未来への道しるべになると思います。
-貴重なお話、ありがとうございました。
(インタビューはここまで)
子どもと大人が1対1で、対等に自分自身のことを語り合う「対話+」。子どもにとって将来のことを考えるためのきっかけになることはもちろん、大人が子どもからエネルギーを得られる場になっていることは間違いありません。
子どもと大人が時間をともにするなか、これからの人生を歩むきっかけ・エネルギーを得るーー。そんな「対話+」を経た2人の時間が未来で交わることを本稿の筆者として願うばかりです。
※この「対話+」授業では、ユタラボが運営する「iroriプログラム-心に火が灯る時間-」が採用され、展開されています。
文責:益田市協働のひとづくり推進課
文章:一般社団法人豊かな暮らしラボラトリー