益田市内の小中学校、高校を舞台に益田市が実施している、子どもと地域の大人が1対1で対等に自分自身のことを語り合う「対話プラス」。
「対話プラス」にはどのような方が参加しているのか、この場で大人が得たものはなにか――。今回は「対話プラス」の創設期から参加し、現在では参加する大人のコーディネート役として関わり続けている、吉田公民館主事・八坂美恵子さんにお話を聞きました。(一般社団法人豊かな暮らしラボラトリー)
深く関わるからこそ、一人一人の魅力が見えてくる
-本日はよろしくお願いします!最初に、自己紹介とこれまでのご経歴を教えていただけますか?
八坂美恵子です。山口県萩市出身です。旧町村名で言えば田万川町ですね。幼少期からずっと田万川で生まれ育ち、地元の高校を卒業して山口銀行に就職しました。会社員を8年ほどしたのち、結婚を機に益田に来ました。益田に住んで25年くらいになります。
結婚後まもなく子どもを授かったこともあり、しばらくは専業主婦をしていました。子どもが幼稚園に入るタイミングでまた働きに出ることにして、NPO法人アンダンテ21で事務をしたり、山口銀行の益田支店で勤めたりした末に、吉田公民館で勤めることになりました。今年で17年になります。

-実際に公民館主事としてどのようなお仕事をされているのか教えていただけますか?
地域の方向け講座の企画・運営・コーディネートが中心ですね。生活の知恵につながる講座や、趣味の充実に向けた講座等です。吉田公民館で特徴的なのは、こうした講座について、立ち上げ期は公民館が主導していても、3年が経ったところで自立してもらう点です。たとえば、エアロビクス講座のニーズが地域にあって、公民館が関わって講座を立ち上げたとしても、3年が経ったら先生を中心とした自主クラブに移行してもらいます。公民館講座で学んだ人が、学びを活かして永続的な自主クラブを運営する方が、学びを地域に還元できていると感じますし、それによって公民館が提供する講座も新陳代謝が進み、バリエーション豊かになるんです。地域の方が自分たちでやりたいことをお互いにお世話し合えるように、そしてそこに自走できる力が備わるように、サポートしていく、それが吉田公民館のスタイルですね。
-意図も含めてとても興味深い形式ですね。公民館主事のお仕事をされるなかで、やりがいを感じたり、仕事の良さを感じたりするのはどのようなときですか?
地域のこと、地域の方のことを深く知ることができるのがこの仕事の良さだと思っています。地域の魅力を改めて知ったり、地域の方と深い関係性が築けたりしたときには、楽しさややりがいを感じますね。勤めはじめの頃は関係性を築くにも手探りの部分が多く、どうしたらいいのか悩んだりもしていました。それだけに、この仕事に慣れてきて、互いに心地いい距離感でお付き合いできていると思えることが増えてからは、地域の方とお話をするのがとても楽しくなりましたね。
一人の人を多面的に知ることができるのは、こういうお仕事をしているからこそだと思っています。地域の方と、それもたくさんの方と、深いお話をする機会って、普通に生活をしていたらなかなか無いじゃないですか。それが、この仕事をしていると、お互いに気を許せる関係に自然となっていって、いつしか深い話もできるようになる。日ごろから公民館に関わってくださる方には親切で共助の気持ちが強い方が多いように感じているので、そういう方とお話をするのは自分にとって学びも多く、ありがたいことだと感じています。
-八坂さんがお仕事で自己実現をされ、充実感を得ていらっしゃるのが伝わってきました!
子どもたちの姿から感じた「対話の力」
-「対話プラス」(旧益田版カタリ場。以下同。)の創設期から様々な形でかかわってくださった八坂さん。「対話プラス」との出会いのきっかけを教えてください。
実は、益田での「対話プラス」との出会いの前に、市外(雲南市)での高校生と大人の対話プログラムを見た記憶が鮮明に記憶に残っています。県内の高校から生徒が集って、泊まり込みで行う合同企画があり、益田高校の生徒を引率することになったんです。教育委員会の方から「八坂さんにも今後関わってもらいたいから一緒に行かない?」と誘われて、「面白そうだし、行ってみようかな」という感じでついていきました。
-そうだったんですね!そのときの思い出や印象に残ったことはありますか?
その場には、本当に多様な高校生が集まっていて、最初はちょっと心配だったんです。活動に対してとても積極的に見える子もいれば、そうでない子もいる。全然違うタイプの子がいて、その温度差が活動を通してより浮き彫りになるんじゃないかと思って……。でも、対話を重ねていく中で、どの子も周囲の人との距離を縮め、本音で語るようになっていきました。いろいろな人と関わって話すことで、こんなに短時間で変化があるんだと驚きましたし、子どもたちの可能性を感じましたね。
対話をするその瞬間を、目の前にいるその子の心地いいものにしたい

-素敵な体験談をありがとうございます。益田市の「対話プラス」に参加された頃のことを聞かせていただけますか?
最初に参加したのは、益田高校でした。「対話プラス」は、高校から始まって小中へと徐々に導入が進んだのですが、本当に初期のころから関わらせてもらっていて、益田高校、益田東中学校、高津中学校や東陽中学校にも行きましたね。吉田地区にある益田中学校での「対話プラス」にも、もちろん参加しています。
-「対話プラス」で対話を重ねた感想について聞かせていただけますか?
中学生とも高校生とも対話をしてきましたが、中学から高校に上がるまでの数年で、子どもたちが本当に大きく成長するということに驚かされましたね。中学生が一生懸命、自分のことを語っていることにも心動かされるのですが、高校生になると自分のことをちょっと客観視できたり、自分の考えていることを言語化したりするのがすごく上手で、それにびっくりするんです。高校生ともなるとしっかり将来のこと考えてるんだなと、そう感じました。
それに、益田には、包み隠したりとりつくろったりすることなく、率直に話す子が多いなとも思いましたね。自分の悩みとか思っていることを結構ストレートに伝えてくれるから、「え、本当に?」と私が揺さぶられましたし、応えたいという気にもなりました。
-「対話プラス」に参加される際、意識していることや大切にしていることがあれば教えてください。
これまで、たくさんの子たちと対話をしてきましたが、その際に私が考えていたのは、「ちょっとでもプラスの時間と感じてくれたらいいな」ということでした。こういう活動に積極的な子もいますが、そうでない子ももちろんいますよね。知らない大人がやってきて、「はい、喋って」って言われて戸惑うのも、想定の範囲内として受け止めてあげないと。だから、口数の少なそうな子と話すときには、「とりあえずしゃべってみよっか」「今朝、何食べた?」って、対話が苦にならないよう、それをまずは意識していました。2時間弱の対話を通して、自分になにができるだろうと、常に目の前の子どもたちの姿を見ながら考えていましたね。最初から自分のことを客観視し分析したうえで、いわゆる「優等生」的な未来を語る子どもたちもいますが、そういう子たちと話すときには、「これって本音かな?ちょっとゆさぶってみようかな」と話題を振ってみる。なかなか言葉の出ない子や、この時間に乗り気でない様子を見せる子には、その子が話したくなりそうなテーマを探る。本当にいろいろな子がいるんです。だから、今、目の前にいるその子の、その瞬間を心地いいものにしたいし、自分が接することで、1個でもプラスになることあればいいと思っていました。
-「心地よさ」は、思いを言葉にするうえで、とても大切だと思います。「対話プラス」に参加される中で、ご自身の変化もありましたか?
ありましたね。子どもたちと話すとなると、自然とプラスのことを口にするんです。「そうよね、やっとられんよね」とかがあってもいいのかもしれませんが、私の場合、話している最中にそれは出てこない。「この時間を通して子どもたちが前向きになるといい」という思いが先に立つんです。参加後も自分の言葉に責任をもちたいという意識が働いて、行動がそれに伴ってくる。「八坂さん、ちゃんとしとるな」って思われるようでないと説得力に欠けるでしょうから。「対話プラス」への参加を重ね、いつしか対話に参加する大人たちを私が紹介するようになってから、その思いはより強くなりましたね。
-子どもにまっすぐ向き合おうとすることが、自分を前向きにしたり、高めたりすることにつながったんですね。
「あなたにぜひ、来てほしい」本音で誘って縁を取りもつ

-コーディネーターとして地域の方を「対話プラス」にお誘いするとき、どういうことを意識していますか?
ロールモデルになりうる人を紹介しようということですね。地域の方にお声がけするときには、いい人だな、素敵な人だな、と思える人を紹介しています。子どもたちがその人を見て、こういうふうに過ごすと幸せそうに生きていられるんだ、というイメージを抱いてほしいので。
協力いただいている地域の方に対しても、心地よく過ごしてもらえるよう意識しています。私自身、「対話プラス」が終わってから、「こんな話でよかったのかな」「上から目線のアドバイスだと思われていないかな」と思い悩んでしまうことがよくあるんです。私の紹介で「対話プラス」に参加をしてくださった地域の方からも同じような話をよく聞きました。子どもたちが自己開示をしてくれるにつれて、話題が学校生活や人間関係、友達関係の踏み込んだ話になっていくからなおさら気になってしまうんですよね。傷つけていないか、あの答えでよかったのか、この子にとっていい時間だったのか……。
-深く関わるからこそ、自分の関わりがどうだったかが気になり、責任を感じてしまうんですよね。私たちにも経験があります。
最初は私の紹介で「対話プラス」に参加をされた方からそういうモヤモヤを吐露されるたび、「ああ、そうだな」と思ったし、「どうしたらいいんだろう」と苦しくも感じました。
ですが、回を重ねるたびに、「対話プラス」はその時だけの関係だからこそ、子どもたちが心中を明かせるということもあるんだろうなと思いはじめ、「対話をしているその時に、自分の経験から言葉を尽くしてもらっているのであれば、それで充分だと思います」とお返しするようになりました。
-短い時間とはいえ、心を開いてもらったと思えば思うほど、自分のかけた言葉がどう受け止められたのかが気になるものなのかもしれませんね。
そうなんです。「あれでよかったんだろうか」「もっとこういう言葉をかければよかった」といった悩みを地域の方から打ち明けられることは多くありますし、1回だけ参加をして、あとは断られてしまったこともあります。コーディネーター的に「対話プラス」にかかわるようになった当初、一番悩んだのはこの部分でした。
でも、それって、当人のせいでもなければ、子どもたちのせいでもないんですよね。その時々の巡り合わせと、当人を取り巻いている状況に依るので。以前は、お誘いして断られると、ちょっと落ち込んだりもしましたが、最近は「この人は今、そういう気分や状況じゃないんだろうな」「また折をみて誘ってみよう」「さて、他にはどの人が適任かな」と、切り替えられるようになりました。参加の可否はさておき、粘り強く声をかけ続けることって、地域の方の近況を聞く上でも有効なんです。
-地域の方をお誘いする上で、大切にされていることはどのようなことですか?
ほかならないあなただから声をかけました、ということが伝わるように言葉を選んでいます。参加してほしい方って、子どもたちに引き合わせたい魅力があるんです。誰に対しても寄り添ってくれそうな優しさがあったり、こういう取り組みに対する理解や興味が人一倍強かったり。だから、それを言葉にして、「こういう人が必要なんです」「ぜひ子どもたちと出会ってほしいんです」という感じでお願いしています。本心からそう思うので、それが自然と言葉になっているという方が近いかもしれませんね。あとは、自分がいいなと感じる方に紹介してもらいます。類は友を呼ぶといいますが、やっぱり「対話プラス」で話してほしいな、という方の周りには、同じような方が集まっている。だから、その縁に頼ったりしています。地域の方の縁の中で成り立っている活動だと思いますね。
-そんなふうに誘ってもらえると、地域の方も嬉しいでしょうね。
「対話プラス」は、自分を見つめて前向きになれる時間
-八坂さんは、これからの「対話プラス」が、益田の子どもたちにとって、また、大人にとってもどのような時間であってほしいと考えていらっしゃるのでしょうか?
実際に自分が参加してみて、これは自分の現在地を確認する時間だなと感じたんです。誰かに見せるために人生グラフを書くなんてこと、めったにないじゃないですか。でも、この場ではそれをする。今できていることやできていないことを、意識的に振り返る。それって自分ひとりでやろうと思ったらなかなか難しいでしょ?「対話プラス」があるから、自分の現在地を確かめることができるし、そういうことに意識を向けられるんです。自分のことを捉え直すと、明日からこれやってみようかなとか、新しく何かに挑戦しようかなとか、前向きな気持ちになることが多いように感じます。子どもにとっても大人にとっても、「対話プラス」がそういう時間になっていたらいいなと思っています。
-最後に、「対話プラス」に寄せる思いや、これから参加してみたいという人たちへのメッセージをお願いします。
以前から益田の人ってフレンドリーでオープンマインドだと感じていましたが、「対話プラス」に関わるようになって、その思いはさらに強まりました。この地で育つ子どもたちにも、こういう温かさ、豊かさを伸ばしてほしいと思っています。もともと益田には、地域の方との距離の近さや、文化を継承していく力があると思うのですが、「対話プラス」を通じて、こうしたいい面がさらに次世代に引き継がれていったらうれしいな、と期待しています。
まだ参加されていない方には、とりあえずやってみて、と勧めたいですね。知らないことに踏み出すのは難しいものですが、参加している大人たちの表情から、面白そうだな、と感じてもらえたら嬉しいなと。それで、ちょっと興味がわいたのであれば、「試しに1回参加してみてください」って言いたいです。
-参加してみたからこそわかることが、たくさんありますよね。貴重なお話、ありがとうございました!

※この「対話プラス」授業では、ユタラボが運営する「iroriプログラム-心に火が灯る時間-」が採用され、展開されています。
文責:益田市協働のひとづくり推進課
文章:一般社団法人豊かな暮らしラボラトリー