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2025年3月25日 (火)

益田のひとづくり教育,対話+

私にとっての子どもと大人が1対1で語り合う授業「対話プラス」三浦玲威さん編

益田市内の小中学校、高校を舞台に益田市が実施している、子どもと地域の大人が1対1で対等に自分自身のことを語り合う「対話プラス」

「対話プラス」にはどのような方が参加しているのか、この場で大人が得たものはなにか――。今回は、高校時代に、小学生と高校生が語り合う小学校「対話プラス」に参加した、益田広域消防署・三浦玲威(みうられい)さんにお話を聞きました。(一般社団法人豊かな暮らしラボラトリー)

片道一時間の自転車通学!柔道に明け暮れた高校時代

-本日はよろしくお願いします!最初に、自己紹介とこれまでのご経歴を教えていただけますか?

三浦玲威です。鎌手地区出身です。鎌手小学校から鎌手中学校に進学して1年間過ごしたのち、統廃合のため東陽中学校に通いました。その後明誠高校に進み、卒業と同時に益田広域消防署に消防士として勤めるようになりました。

-三浦さんの高校時代について教えてください。高校3年間を振り返って、特に思い出に残っていることなどはありますか?

とにかく柔道三昧の高校生活でした。母や姉がしていたこともあり、私も年長で柔道を始め、ずっと打ち込んできました。小学校や中学校には柔道部がなかったので、当時から明誠高校の生徒に混じって稽古をしていました。高校ではもちろん柔道部に入り、朝練から始まって、部活動で終わる生活を送っていました。部活動をしていないときも、ずっと柔道のことを考えているような高校生でしたね。

 

-柔道中心の生活だったんですね。そのころのことについて、もう少しお話をうかがいたいです。

当時は鎌手から明誠高校まで自転車で通っていました。部員全体で朝練をする前に、個人練習もしたかったので、4時か5時には家を出て、約1時間かけて柔道場に向かい、そこから1時間くらい筋トレしながら他の部員を待っていました。みんなと朝練をしたらクラス朝礼の時間、という感じです。授業が終わってから3時間程度、また部活動で柔道をして、それが終わると鎌手に帰る。そんな生活でしたね。

 

-朝4時!この生活スタイルを聞くだけでも、三浦さんがどれだけ一生懸命柔道と向き合っていたかが伝わってくるようです。高校3年間の柔道生活はいかがでしたか?

柔道は好きで始めて、ずっと楽しくやっていましたが、高校時代には苦しい思いもしました。士気が下がった時期もあります。なかでも覚えているのは高校2年生のときですね。慣例では3年生が務めることの多いキャプテンを、2年生の私がすることになりました。先輩との関係性に頭を悩ませることも増え、ただ自分が柔道をするだけだったときにはなかった葛藤が多く生まれました。同じタイミングで、私が小学校から柔道を教えていただいた先生が他校に転出されたんです。ずっとその先生に習いたいと思っていた私にとっては、本当に衝撃が大きくて⋯⋯。その時期はモチベーションを維持することが難しく、柔道部という時間が苦しいものになっていました。

 

-三浦さんにもそんな時期があったんですね。その後も柔道部は続けられたんですか?

そうですね。なんとか持ち直して、高校3年生で引退するまで部活動をやり遂げました。柔道そのものは今も続けていて、今日もこのあと、小中学生との練習があるんです。

 

-小中学生に柔道を教えていらっしゃるんですか?

はい、週に3回程度です。小学生の頃から柔道を教えたいと思っていたので、今は自分の柔道も楽しみつつ、教えることもできていて、充実していますね。

 

-柔道は三浦さんの生活になくてはならないものなんですね。教え子さんたちの成長も楽しみです。

 

自分の苦手や弱みを伝える―対話を届け、引き出すために―

-続いて、「対話プラス」(旧益田版カタリ場。以下同。)についてお話を伺いたいと思います。三浦さんは昨年度、小学生対象の「対話プラス」に、高校生参加者として数多く関わってくださいましたが、参加のきっかけなどはあったのでしょうか。

私も中学生のときに、「対話プラス」を受けていました。また、姉がかつて小学生対象の「対話プラス」に高校生として参加をしたため、その話も聞いていました。高校生活も終りが見えてきた頃、小学校「対話プラス」の説明会がありました。それで、自分の中で全てが繋がったというか⋯⋯。小学校「対話プラス」の場作りは、高校3年生がやっていたんだとわかったんです。それまでは、準備された企画を受ける側だった「対話プラス」でしたが、対話の時間を届ける側もやってみようかなと思って参加することにしました。

 

-これまでとは異なる立場で参加をしてみて、なにか違いを感じたり、驚いたりしたことはありましたか。

中学生の頃に参加した記憶では「一人の大人とじっくり話した」という印象が強かったのですが、対話を届ける立場で参加をした高校3年生のときには、1回の「対話プラス」で話をする相手が多いんです。対話そのものは1対1でやるわけですが、1回の「対話プラス」中に、3人くらいの小学生がやってくるから、対話もメッセージカードのやり取りも大幅に増えて、そこに驚きましたね。

 

-たしかに、対話を届ける側になると、1回の企画で対話をする相手が増えますよね。プログラムの冒頭には、人生グラフを使って、これまでの自分の歩みについて話すパートがあると思うのですが、その際にはどのような話をされたんですか?

ほとんどが柔道の話でした。辛いこともあったけれどいろいろなことを学んだよ、といった話をしたと思います。ただ、導入ではそれ以外の日常生活にも触れ、自分にとって難しかったことや苦手だったことを意識的に話していました。例えば勉強でなら苦手科目のこととか、恋愛だったら振られた話とか。そういうことをこちらから口にしていれば、相手も話しやすくなるんじゃないかな、思いを引き出せるんじゃないかなと思ったんです。

 

-高校生がうまくいかなかったことまで包み隠さず話してくれたと感じられたら、小学生も安心して自分のことを口にできるかもしれませんね。自分のことを伝えるうえで、気を付けていたことや、大切にしようと思っていたことがあれば教えてください。

聞いてくれる小学生たちの反応を待つことです。自分の言葉に対してどういう反応をするかを見て、それから次の話をするように気を付けていました。また、最初は楽しく話をしつつも、最後には真剣なモードに切り替えて、心に届くメッセージを送りたいと思っていました。

 

-小学生たちから特に反響があったのはどういう話でしたか?

自転車で1時間かけて高校に通っていた話です。みんなびっくりしていました。私は柔道をしたいという思いから明誠高校に進学し、柔道一色の生活をしていましたが、こういう話をするときには、小学生たちが夢を追う中で、ときにはきついことにも向き合わないといけないんだな、ということに思いをはせてくれたらいいな、と思っていました。

 

-1対1の対話の中で難しさを感じる場面や、戸惑うことはありましたか?

戸惑ったのは沈黙が続いたときですね。こっちが楽しませないといけないという思いも持っていたので、どうしよう、と。名前の話や習いごとの話から始めて、いろいろなことを話せる雰囲気にもっていこうとするものの、「これはどう?」と投げかけてみても「普通」の一言で終わってしまうことも⋯⋯。そこに難しさを感じましたね。

 

-昨年度は小学校対象の「対話プラス」を14校で実施したわけですが、三浦さんはそのうち、10回は参加をしてくれました。やっぱり回数を重ねるうちに慣れてきて、そうした場面を切り抜ける手法がつかめてきたりするものなんでしょうか?

多少わかってきたこともありますけど、それでも一人一人違うので、何回経験しても、難しい部分はありますね。だんだん掴んできたなと思って、この話題なら、こういう切り口なら盛り上がるぞ、と思っても、こっちが考えていた反応と違うな、となることもあります。

 

-それは三浦さんが小学生それぞれの反応を見ながら、興味関心を探ろうといろいろな言葉を投げかけているからこそ感じられた難しさだったのかもしれませんね。

 

夢を語る小学生の姿に背中を押され

-一対一の対話で楽しかったことや心動かされた場面についてもうかがいたいです。

高津小学校で、ある女の子と対話をした時のことです。高校生参加者に女子も多くいる中で私のところにきてくれたことに驚いたから、最初から印象的ではあったのですが、夢について語るときの姿が何よりも記憶に残っています。

 

-その時のこと、ぜひ聞かせてください!

夢を語るときの真剣さに引き込まれました。フォトグラファーになりたいって言うんです。「夢を叶えるために、こういうコンテストに参加しています」と、今やっている挑戦についても教えてくれました。私は幼少期から警察官か消防士になりたいと思っていましたが、それに向けてやったことで思い出せるのは、そうした仕事についている大人から話を聞いてみるくらいで、実現に向けて何か行動してみよう、それで力をつけていこうなんて考えたかどうか。でもその女の子は、夢のためにどんどん前に進んでいく感じが、話の中から感じられたんです。夢を口にするだけじゃなくて、そこに向かって具体的な行動を起こせていることに心動かされましたね。

 

-素敵なエピソードですね。その子は、他ならぬ三浦さんに、夢に向かって進む自分の取り組みを聞いてほしかったんだと思います。

「自分はサッカーをしていて、いつか全山陰でプロになりたい」と語ってくれた子もいました。それも同じ小学校に2人。これも印象的でしたね。実は私には「オリンピック金メダリストになる」という夢もあったんです。でも、自分の実力を考えたときに「やっぱり弱いしな」と思ってしまって、ちょっとずつ諦めていったんですよね。その子たちの夢に触れたときは、自分が幼少期に抱いた夢も思い起こすことができましたし、「そのまま頑張って夢を叶えてほしいな」と応援したい気持ちになりました。

 

「対話プラス」での出会いから新しい視点が生まれた

-プログラムの最後にはメッセージカードのやり取りをしますが、小学生からメッセージを受け取った感想を聞かせていただけますか?

夢を語ってくれた子が「自分ももっと頑張りたい」とメッセージをくれたり、春から消防士になることが決まっていた私の話を受けて「頑張ってください」と書いてくれたり。こういうメッセージに後押しされ、私自身がまた一から頑張ろうという思いになって新生活を迎えられたので、それは本当にありがたかったですね。また、私はいつも、「ありがとうという気持ちをもってください」と小学生に伝えていたのですが、「私はありがとうと言われる人になりたいです」と書いてくれた子がいて、そのメッセージカードを読んだ時には、新しい視点を得たような思いがしました。

-「対話プラス」の良さは、双方向にメッセージをプレゼントしあえるところにもあるように感じます。新しい視点をもつことができたというお話もありましたが、「対話プラス」への参加を通じて、他にも自分に変化を感じることはありましたか?

高校生の参加者同士で仲を深めることができ、たくさんの刺激を受けて視野が広がりました。世代が近いユタラボの職員や他校に通う高校生と話ができたのはよかったですね。他校の生徒って、同じ中学校出身だったりしない限り、なかなかじっくり話すことってないですよね。でも、「対話プラス」を介して出会った生徒同士は、あっという間に仲良くなったんです。「対話プラス」後にみんなで振り返りをしたり、ボードゲームで遊んで交流を深めたりしました。お互いの夢について話す場面も多かったですね。それぞれ夢や進路が多様なこともあり、いろいろな世界に触れることができたように思います。

-「対話プラス」のなかで、夢を語るたくさんの小学生と出会い、またその思いを引き出そうと言葉を重ねてきた仲間同士だからこそ、自分たちの夢について語り合う雰囲気が生まれたのかもしれませんね。

そうですね。また、普段の生活の中でも自分の気持ちの伝え方が変わったように思います。言葉の選び方と言ってもいいかもしれません。「対話プラス」で出会った小学生たちに秘めた思いがあったように、一緒に柔道をやっている小中学生たちにも今は口に出せていない思いがあるんじゃないかと考えるようになり、そういう思いを引き出すためにどういう言葉をかけるか、これまで以上に気を配るようになりましたね。

-相手にどのような言葉をかけるかって、人によって、また場面によって違いますよね。三浦さんがじっくり選んだ言葉は、きっと相手の心にも届いてその思いを引き出していくんだと感じました。

三浦さんが参加した2023年度小学校「対話プラス」参加高校生のメンバー

かけがえのない経験を多くの人にしてほしい

-最後に、これから「対話プラス」に参加するかもしれない高校生や、これから高校生になる中学生たちにメッセージをお願いします!

私が小学生対象の「対話プラス」について説明を耳にしたのは高校3年生の3学期、あとは卒業を待つだけという自由登校期間でした。授業も部活動もない期間で、なにもないとも言えるし、いろいろなことができる期間とも言えます。家でゴロゴロもできたかもしれないし、遊びやバイトに出ることもできた期間でした。たくさんある選択肢の中から、私が「対話プラス」を選んだのは、「他のことはいつでもできるけど、こういう経験ができる機会は多くない」という思いがあったからです。そして、「対話プラス」に参加した今、あらためて、「お金では買うことのできない経験値を得ることができた」と感じています。だから、少しでも興味をもっている人がいたら、ぜひ参加してもらいたいと思いますね。

-貴重なお話、ありがとうございました!

※この「対話プラス」授業では、ユタラボが運営する「iroriプログラム-心に火が灯る時間-」が採用され、展開されています。

文責:益田市協働のひとづくり推進課
文章:一般社団法人豊かな暮らしラボラトリー

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