今回ご紹介するのは、ローソン益田高津店で移動販売事業をされている多田邦子さん。
益田市高津町で生まれ、商いを営むご両親の元で育ったことから小さい時から商売には「当たり前」に接してこられたとのこと。
そんな多田さんがコンビニという日々多忙な業務の中で、なぜ手間も時間もかかる移動販売に取り組まれているのか。
今回のインタビューでは地域福祉の観点から、移動販売を始められるまでの経緯や物を届けることへの想い、そしてこれからの展望などについてお話を伺った。
現在の移動販売について
―ご出身はどちらですか。―
出身はこの益田市高津町です。本当に地元の生まれで。
―ローソン益田高津店が移動販売をしているということを最近まで知りませんでした。移動販売の日程などは公表されているのでしょうか。―
日程の公表はしていないんです。これには事情があって、みなさんのご要望で日程を埋めていく形を取らせてもらっているので、毎月の日程が不定期だからなんです。
今後はそれを整備していって、定期的にやっていきたいとは思っています。
―移動販売に来てほしいという要望もかなりあるのではないでしょうか。―
徐々に増えてきています。でも、本当に必要なところに行けているのかなっていうのはわからなくて。
それと、現在は要望に応える形で移動販売のスケジュールを組んでいるので、訪問する場所によっては1日がかりになったりするんです。ここの整理をしないと時間的にいろいろなところに行けない。ここはまだまだこれからの課題です。
―市内ローソンの他店舗でも移動販売はやっているのでしょうか。―
市内では今のところ益田高津店だけで、島根県でもここが2店舗目なんです。
―島根県内でも2店舗だけですか。―
移動販売車もローソンからの貸出ですし、やっぱり経費もかかるので。おそらく、そういった理由もあるんだと思います。
移動販売車との出会いと、多田さんの『情熱』
―移動販売車での事業は益田高津店がローソン本部に申請されたのでしょうか。―
そうです、私がすっごくやりたくて。
年に2回ほどローソンセミナーというものがあるんですが、そこで毎回移動販売車を展示してあるコーナーがあったんです。そこで車を見た時に「もう絶対これやりたい!」って思って(笑)。
でも、やっぱり経費もかかりますし、まず移動販売の実績が無かったんです。実績が無いところではリサーチが難しいので、ローソン本部としても益田市で移動販売をやっていけるのか見込みが立てにくかったと思います。
―益田市では移動販売の実績が無いというハードルがあったわけですね。―
セミナーの会場では毎回「お願いします!」って言っていたんですが、それだけではなかなか気持ちは届かないじゃないですか。
そこで、島根西支店長がこの店舗に来られた時に熱く語ったんです。「やらせてください!もうぜひやりたいんですよ!」みたいな感じで言ったら、支店長さんも「わかりました、上にあげてみます。」って言って、飛び越え飛び越えで私の『情熱』を伝えてくれたんです。
―多田さんの『情熱』が上の方までも動かしたということですね。―
半分は期待していなかったんですけど、その後はどんどん話が進んで。
日本の中でも島根県の、特に西部のこの辺りっていうのは人口も減少している地域なので、新しい事業に投資するのがローソン本部としても勇気がいる判断だったと思うんです。だから本当に信頼してくれたんじゃないかなって思っています。
―移動販売をやりたいと思った、『情熱』を持ったキッカケは何だったのでしょうか。―
ここのローソン益田高津店は、昔は「あかし屋」っていうお店で、その時には色々な所に配達に行っていたんです。お客様の中には目が不自由な方や、足が不自由な方、高齢の方もたくさんおられて、その方々と接することで自分も勉強させてもらうし、なんか温かい気持ちになるんですね。喜んでもらえて私もすごく嬉しかったんです。
それがローソンに切り替わってすごく気になるわけなんですよね、「今まで配達に行っていたあのおじいちゃんは大丈夫かな。」「買い物に来なくなった近所のおじちゃん心配だな。」って。
だからそういう人には「どんな?」って声をかけに行きたいし、何か必要なものがあれば届けてあげたいという思いがずっとあったんです。
そう思っていたところに移動販売車の展示があったので、もう「これこれ!!」とか思って(笑)。
―移動販売をやられてきて苦労された部分があれば教えてください。―
私がずっとやりたかったという個人の想いでやっていた部分があったので、もちろん仕入れなどを手伝ってくれる人はいたんですけど、私が頑張りさえすればどうにかなるっていう考えでやっていたんです。
ですが、手を挙げてやり始めたところで私が体調を崩してしまって、移動販売をしばらくの間中断しなくてはならなくなったんです。その時に、やっぱり1人でやるのは無理だな、自分がやりさえすればどうにかなるっていう問題ではなかったんだっていうことにすごく気が付いて。もう移動販売は諦めるしかないかなって思ったりもしたんですけど、でも、どうしても諦めきれなくて。
そこで、自分ができることは一生懸命やって、できないところはみんなに助けてもらおうっていうことにしたんですね。そうしたらそれが良かったと思うんです、もう本当に周りの人が助けてくれ始めて。
―1人だけではどうしても限界がある部分もありますよね。―
最初からみんなでやっていく土台があればもっと良かったのかもしれないのですが、そういうことに気付かせてもらえて、かえって良かったかなって思っています。
―周りの方も、多田さんが『情熱』を持って取り組まれていた姿を普段から見られていたのでしょうね。―
1人の力は少なくても、みんなが力を持ち合うことで物事は進んでいくんだなっていうのはすごく感じています。
移動販売も目標のための手段の1つ
―目標もどんどん大きくなっていきますね。―
この移動販売も目標のための1つの手段なんです。ですから、その目標のためにいろいろな方法を増やしていけたらいいなとは思っています。
―その目標というのはどういったものなのでしょうか。―
私の目標っていうのは「みんなが笑顔で暮らせる」っていうことなので、周りの人も、もちろん自分も笑顔で暮らせるような街にしたいっていう想いがあります。それに向かっていくためには移動販売も大事ですし、もし他に何かあるんだったらそれも大事だとは思うんです。
でも今私にできるのは移動販売。これをみんなと一緒にやっていきたいと思っています。
―移動販売は目標のための手段の1つということで、その手段がこれからいろいろな形に変わっていく可能性もあるということですね。―
さっきも言ったように、移動販売で本当に助かる人もいるでしょうし、移動販売だけではなかなか届かない部分もあると思うので、これが全てだとは思ってないんです。ですけど、移動販売で届けるのは物だけではなくて、その時の心のやりとりというか、心を届けることだと思うんです。その想いで私は商売をしているので、商品を届けて、その時にかける言葉や、笑顔でその想いを届けるっていうのがプラスアルファになっているんじゃないかなと思います。そこがこの移動販売をやっていて嬉しいところだったりするんです。みんなが笑顔になれる事で、人に必要とされて、私たちにできる事は増やしていきたいですね。
―移動販売をやっていくためには、時間的にも身体的にもかなりのエネルギーが必要ですよね。―
多分想像されている以上に移動販売には手間がかかるんです。前後の下準備や仕入れ準備、出発の1時間前には車を冷やして、それから積み込みをします。また、帰って来てからも車が冷えた状態なので、結露を綺麗に拭きあげないといけません。目に見えない作業としては、棚卸の日に移動販売が入ると、持って出た物が分からなくならないように移動販売に行くまでに全部の棚卸をやっておかないといけないとか、色々あります。
―やはりそこにはかなりの手間暇がかかっているわけですね。―
そうなんです。でもそれは始める前から重々承知で。そこは自分の労働力を提供すれば、自分さえ元気でやることができればと思っていたんですが、そうはいかなくなってしまって。さっきも少し言ったんですが、本当にみんなの幸せっていうことを考えれば移動販売で働く人の幸せも考えないといけません。ですからお店の目標としては、移動販売でちゃんと1人を雇えるくらいの販売力っていうのは目指しています。
―移動販売を今後も継続させていくには、もちろん利益の面も必要となってきますよね。―
やっぱりそこはちゃんと目指すことが必要ですよね。大きな儲けをするつもりはないですが、働いてくれる人のやりがいというところもありますし、ここで働いてお給料をもらえて良かったと思ってもらうことがすごく必要だと思うんです。
1人1人に対して優しい社会を目指して
最後に、多田さんのこれからの展望についてお話を伺った。
これからの展望なんですけども、何か計画があるとかじゃないんですが、1人1人に対して優しい社会というか、今は移動販売も行った場所に集まってもらうような形なので、そこまでの交通手段も無く、まだまだ取り残されている方もいらっしゃると思うんです。そういうところをみんなの力で上手く回っていけるようなシステム作りができればいいなと思います。
また、私は移動販売という形での取組ですが、違う業種の方とかでも何か提案があれば、何かやろうかなって思う方がいらっしゃれば、一緒にできたら良いですよね。
―いろいろな人が集まることで足りない部分を補い合えることもあるかもしれませんね。―
自分が見えていないものでも見えてくる場合がありますよね。そういった想いを持った人がどんどん集まって、繋がっていけば何か形にできるんじゃないかなって思うんです。
「笑顔で生きやすい生き方」っていうのをみんなで考えていきたいです。
―貴重なお話ありがとうございました。―
文責:益田市福祉総務課