UIターン者のライフキャリアシリーズでは、県外からUIターンされ益田市でいきいきと生活されている方を紹介し、自分なりの豊かな暮らしについて考える機会をお届けします。今回紹介するのは、かまて地域づくり協議会の会長、野村道徳(のむら・みちのり)さんです。
鎌手の海で遊んだ幼少期、医療の道に進もうと決めた高校時代

-本日はよろしくお願いします!最初に、自己紹介とこれまでのご経歴を教えていただけますか?
野村道徳です。理学療法士をしています。鎌手で生まれ育ち、高校卒業後は山口で理学療法士の勉強をし、その後益田にUターンしました。
-鎌手での幼少期の思い出について教えてください。
外で遊ぶことが多く、海によく行きました。私の幼少期は、夏休みにはプールではなく、鎌手の海水浴場で毎日のように遊んでいたんです。保護者が当番制で見守りをしてくれていましたね。
-毎日海水浴!とても贅沢な環境ですね。理学療法士になりたいと思ったのはいつごろからですか?
高校3年生の夏です。実はそれまでは美術系も選択肢になっていたのですが、だんだん「デザインで自分は食べていけるだろうか」と不安を抱くようになりました。
それで親に相談した際、医療系の仕事をしていた母が教えてくれたのが理学療法士でした。当時はまだあまり知られていなかったですが、「リハビリ」を仕事にして人を支えられるということが驚きで、スポーツをする人をサポートできる点もいいなとも思い、この道を志すことにしました。
-理学療法士になろうと決めたときから、益田で働こうと考えていらっしゃったんですか?
その当時は全く決めていなくて、選択肢の一つとして地元があった、というくらいでした。就職先を考えようという時に地元の友人から「リハビリ職の募集が多い」と聞いたのもあって、帰ってくることにしました。なので正直、当時はここまで地域の活動にのめり込むとは思ってもみませんでした(笑)
母校の閉校を前にして生まれた地域への思い

-今の野村さんは、多世代にわたるつながりの場を創出されている印象がありますが、そのようなつながりは、いつ、どのように生まれたのでしょうか。
きっかけは鎌手中学校の閉校だったように思います。私の母校であり、私の子どもたちが通う学校でもありましたが、2019年3月をもって閉校し、鎌手中学校区の子どもたちは、お隣の東陽中学校に通うことになったんです。
閉校の話が出るようになったタイミングで、ちょうどPTA役員をしていたのもあって、閉校についての話し合いに参加するようになって。それが、地域に関心を持つようになった最初のきっかけでした。
-閉校についての話し合いの中で、鎌手への思いが募っていったんですね。話し合いではどんな意見が出たんでしょうか?
最初のうちは、コミュニティーの場がなくなることに対する懸念の声をよく聞きました。一方で、生徒が減って部活動の存続も難しいような現状もある。閉校は残念だし寂しいけれど、子どもたちのことを考えると仕方がない、という思いをもった人が多いように感じましたね。
閉校が決まってからは、この地区の子どもたちが、東陽中学校に通うにあたって心配なことについて、一つ一つ話し合いました。通学方法や、制服の買い換え、通学路の不安な部分などについて、1年ぐらいかけて協議しました。あの頃は年に40回は会議をしたと思います…!
でもその時間のおかげで、「学校が閉校になったとしても、この地域を次世代のために残していきたい」という思いが強まりましたね。
-年に40回も!一つの学校が閉校になることの重みや大変さ、地域への影響の大きさについてあらためて考えさせられました。
かまて地域づくり協議会で様々な活動をされるまでにはどういう経緯があったんですか?
閉校式が終わり半年ほど経ったころ、鎌手地区の「地域自治組織」という住民有志の地域団体が立ち上がるという話を聞いたんです。最初は「地域自治組織って何?」というところからのスタートでしたが、PTA役員として準備委員会の一員として会議に出ることになりました。
その中で、活動内容や目的が見えてくるようになり、この組織をうまく活用できれば、地域を盛り上げられるような面白いことができるんじゃないか、と思うようになりました。
最初にしたのは仲間を集めること。私は準備委員会の一員でしたが、メンバーはシニア層が中心だったので、同世代があまりいなかったんです。保護者世代として入っている以上、自分が旗振り役になろうと周りに声をかけ、15人くらい仲間を集めました。
そして、かまて地域づくり協議会の3つの部会の1つ、「魅力づくり部会」の部長に就任し、まずは既存のイベントに参加して地域を盛り上げようと考えたんです。魅力を作ると言ってもなかなか難しいので、まずは自分たちが魅力を研究してみよう、という思いを込めて、魅力という意味の「チャーム」、研究所という意味の「ラボ」を合わせて「チャームラボ」という愛称をつけて活動を始めました。
-そういった経緯で、保護者世代が活発に活動されている魅力づくり部会が誕生したんですね。実際に活動されてみていかがでしたか?
それが……いよいよ活動開始というタイミングでコロナ禍に見舞われたんです。それで、地域のイベントが全部なくなってしまったんですよ。
そこからは、この状況下で何ができるかを仲間たちと話し合いました。コロナ禍でも、外でなら集まれると思って外でみんなで集まってコーヒーを飲んでみたり、オンライン会議をしてみたり……。柔軟に形を変えながら話し合いを重ねられたのは、若い世代中心だったからこそでしたね。
いろいろな制約がある中でも「やってみよう」と意見を交わし続けた日々は、何事もできないと決めつけずに、「できる方法を考えよう」という今のスタイルにつながっていると感じます。
-前向きにやりたいという人が多く集まっていたからこそ、コロナ禍にあっても、工夫して何かをしてみようという流れになったんですね。その後はどのような活動をされたんでしょうか?
最初に取り組んだのは「鎌手の魅力マップ」作りです。月に一回、鎌手の各地区を歩いて回り、自分たちの目で確認しながら情報集めしました。私は海沿いで生まれ育ったので、同じ鎌手地区でも山間部を回ったときには新鮮に感じましたね。他の地区にどのような魅力があるか、まだまだ知らない自分にも気づかされましたし、地域のことに詳しい上の世代の方からお話を聞くのもすごく面白かったです。
また、みんなでじっくり時間をかけて、本当にやってみたい形を実現しようと動けたのもよかったですね。ただのマップではなく、「アート」を取り入れたいという意見が出たので、地域にアトリエを構えてアート活動をしている方の作品を見に行き、力を貸していただいたり。その方の作品は和紙に手で描いたものなのですが、その独自のスタイルをマップに取り込むことにしたんですよ。
他にも、デジタル化したい、更新できるようにしたいといった意見が出て、それらをすべて盛り込んだ結果、3年越しで鎌手魅力マップが完成しました。
-3年も!マップを構成する一つ一つの要素にこだわりをもって皆さんで作り上げたという感じだったんですね。
時間をかけた分、手が込んでいますし、思い入れもあります。特に、アートとの融合という面では、私自身、高校時代までデザインの分野に進みたいという思いがありましたから、ずっとやりたかったことを、地域活動を通して実現できるようになったという感覚もありましたね。
-地域活動を楽しみながら、自己実現にも繋げていらっしゃるというのが素敵ですね!
“遊び心”と“地域からの応援”が活動の原動力

-魅力づくり部会では、コーヒーやSUPの活動も継続的にやっていますよね。こうした活動の立ち上げについてもお話を聞かせていただけますか?
コーヒーワークショップについては、「みんなで何かやりたいね」と話し合う中で出てきたアイデアから始めました。まずは、地域のみんなで集まって話をすることが大事だと思った時に、コーヒーがいいツールになると思ったんです。
コーヒーを淹れて飲む生活って、優雅でおしゃれで、気分が上がりますよね。忙しい世代でも朝なら集まれるので、朝活でゆったりとコーヒーを楽しむ時間があるといいなと思って。
-チャームラボのコーヒーは、今やエプロンなどのかわいいグッズもできて、一つのブランドのようになってきていますよね。
そうですね。続けるなかで形もどんどん変わっていって、他の地区のイベントでの出店を依頼いただくこともあります。皆さんに親しんでもらえていることが本当に嬉しいです。
SUPはコロナ禍のアウトドアブームに着想を得て始めました。最初はみんなSUPなんて聞いたこともなかったんですが……(笑)もともとこういったアクティビティが好きな私が、「これは絶対に楽しくできるし、鎌手の海の魅力も伝えられるものになる」と感じて、ものは試しにとスタートしたんです。
最初は地域外の大人を対象としたイベントでしたが、そこから子ども向けになったり、朝活SUPでノラマーレさんとコラボしたり、市外の大学生向けの体験プログラムを作ったりと、どんどん層が広がっていて面白いなと思います。
-好きなことをやっていたら地域のためもなっていた、というのがとても素敵です。
活動のスタート地点にはだいたい“遊び心”や“ちょっとしたノリ”があります。
コーヒーとSUPを掛け合わせたイベント「SUP and Coffee」も、坂口健二さんの「Surf and Coffee」や「Rising Sun Coffee」というブランドに目をつけて、「これは使える!」「うちはSUP and Coffeeで行こう!」と(笑)
そうやって遊び心が形になっていくのが面白くて。仕事ももちろん楽しいですが、地域活動にはそれとはまた違うワクワク感があります。失敗しても怒られないですしね(笑)
立ち上げ期がコロナ禍で、何をするにもゼロベースで考える必要があったからこそ、「自分たちがワクワクすることをやってみよう、作ってみよう」と、どこまでも追求することができたんでしょうね。
-チャームラボの人たちには、「とにかくやってみよう」というエネルギーがあるように感じます。そのエネルギーの源は、何だと思いますか?
ひとつには、やはりやりがいがあると思います。「いいことやってるね」と地域の方が実際に言ってくれる、それがすごく嬉しくて。活動内容を知っていただこうと資料をお見せしながら説明をしていると、とても応援してくれるんです。
自分たちにとって楽しいということと、地域の方から応援されているという喜びが相乗効果をもたらして大きなモチベーションになっているんだと思います。
-野村さんは、もともとは自治組織の一つの部会「魅力づくり部会」の部長だったと思うのですが、そこから自治組織全体の会長になった経緯について教えていただけますか?
自治組織の前会長は70代の方だったのですが、当時の僕たち世代の活動をすごく応援してくれて、「次は会長を若い世代に託したい。やってくれんか」と、直々に声をかけてくれたんです。その声に背中を押されて引き受けることにしました。
-そうやっていろんな世代の方がちゃんと応援してくれるのは、嬉しいですよね。
本当にそう思います。僕たち40代から見ると、60代・70代の人たちってどうしても少し距離を感じる存在だったんですが、活動を一緒にする中で、その距離が縮まったというか、仲良くなって、すごく好きになれたのはすごく良かったですね。もう一歩深い繋がりができている感じがして、嬉しいんです。
-子どものころには繋がりきれなかった人たちと、大人になってから活動を通して繋がれるというのは、とても大事なことですね。自治組織の会長として、今後の目標や展望があれば教えていただけますか?
まずは部会同士で助け合いながら様々な取り組みを続けられるようにしていきたいです。人口が減っている地区なので、同じことを続けるにしても大変さが出てくるだろうと思います。だからこそ、3つの部会の連携を一層強めていきたいですね。
また、これまで地域で素敵な活動をしていた各団体とのつながりも作っていきたいです。私たちが始動した時期、多くの団体がコロナ禍で活動自粛を余儀なくされていましたが、少しずつ活動が再開してきています。今後はもともと地域にあった様々な団体と連携していきたいと思っています。

「暮らし」も「仕事」も全力投球
-最後に、野村さんご自身の暮らしについて教えてください。お仕事も、地域でも幅広く活動をしていらっしゃいますが、多忙感を抱いたり苦しくなったりしたことはないんですか?
実はまったくないんです。「ワークライフバランス」という言葉には「ライフのためにワークをちょっとセーブする」といったイメージがあるかもしれませんが、私はどちらも全力で取り組むことでバランスをとる、ということが大事だと思っています。
どちらかがうまくいかないことがあっても、もう片方に助けられる。今の自分の生活は、それが実現できているので精神的にも全然しんどくないんです。責任感をもってサポートしてくれる仲間がたくさんいるのも大きいですね。このやり方ならずっと続けられると確信しています。
-野村さんのその姿勢が皆さんに伝播しているのかもしれませんね。野村さんご自身のこれからの暮らしや生き方について、大事にしたいことや目標があれば教えてください。
はっきりとした「これを成し遂げたい」というものはないんですけど、仕事も生活もこの活動も、一生懸命やりたいと思っています。それが僕の目標ですね。一生懸命やっている人って、やっぱりかっこいいなと思うんです。だから、やるからには全て全力でやるということを、これからも実現していきたいです。
-さきほどのワークライフバランスの話にもつながりますね。貴重なお話ありがとうございました!

文責:益田市地域振興課
文章:一般社団法人豊かな暮らしラボラトリー