恩師のライフキャリアシリーズでは、益田市でいきいきと生活されている教員の方を紹介し、自分なりの豊かな暮らしについて考える機会をお届けします。今回紹介するのは、益田市立匹見小学校の溝田里美(みぞた・さとみ)先生です。
自然の中で体を動かすのが大好きだった子ども時代

-本日はよろしくお願いします!最初に、自己紹介とこれまでのご経歴を教えていただけますか?
溝田里美です。益田市立匹見小学校に勤めています。匹見町の出身で、匹見小学校、匹見中学校から益田高校へと進学しました。大学進学を機に一度県外に出ましたが、卒業後すぐに教員として益田に戻ってききました。
新卒で中西小学校に赴任し、その後安田小学校で勤務し、母校である匹見小学校に着任、今に至ります。教員歴はちょうど10年になります。
-匹見町のご出身なんですね!どのような子ども時代を過ごされたのか教えてください。
小中学校時代は毎日、匹見の豊かな自然の中で遊んでいました。小学生の頃は学校から帰るとすぐにサッカーをしに出かけたり、中学生になってからはバレー部が終わってから自転車で川遊びに繰り出したり、といった日々でした。山や川で遊ぶのが大好きな子でしたね。
-バレーボールはけっこうハードなイメージがありますが、部活動のあと、さらに川遊びに出かけるなんて、本当に運動が好きな子だったんですね。
そうですね、今はこれというスポーツをしているわけではありませんが、冬になったらスノボにも行きますし、自然の中で体を動かすのは小さいころから好きでしたね。
-学校の先生になろうと考えるようになったのはいつごろですか?
高校に入ってからです。進路学習で、「スポーツインストラクター」という職業に出会いました。そこから体育の先生もいいな、と考えるようになりました。
ある時、将来について友だちと話していたら「小学校の先生が向いてるんじゃない?」と言われ、とても納得したんです。子どもも好きだし、楽しそうだなと。そうした後押しもあって、小学校の先生を目指すようになりました。
一生懸命頑張る子どもたちの姿が仕事のやりがいに

-その後、実際に夢を叶えられたわけですが、実際に小学校で働いてみていかがでしたか?
教員になりたての頃は、毎日が精一杯でした。高校時代や大学時代に想像していた学校の先生のイメージよりもはるかに大変だと感じましたね。教育実習でしか授業をした経験がない中で、いきなり担任になって初日から全教科を教えないといけないということに戸惑いました。もちろん子どもたちと過ごす時間はとても楽しいものでしたし、大変なことばかりではありませんでしたが、最初の頃は授業準備に追われる毎日でした。
-小学校って、担任の先生が全教科教えますよね。1年生と6年生では発達段階も学習内容も全く違うと思いますし、とても大変そうに思えます。
実は今年度は初めて1年生を担当しているのですが、高学年とは違った視点で授業準備や関わり方の工夫をする必要があり、今も試行錯誤を重ねています。
-低学年の子どもたちと関わるときにはどのようなことを意識されているんですか?
日々意識しているのは、言葉選びです。たとえば「3人以上でこっちに来て」と言いたいときに、「以上」という言葉が伝わらなかったりします。どう伝えればこちらの意図が伝わるのか、言葉選びに悩んだり、指示そのものを変えたり、そういったことに気を配っています。
1年生でもできることは多くありますし、こちらの判断でハードルを下げすぎてしまわないということも大切です。何が伝わるか、どこまでできるのか、目の前の子どもたちの姿を見ながら、子どもたちが挑戦できるように関わっていますね。
-子どもさんたちのできることを大切にするためにも、ただ簡単にするだけではなくて、ちょうどいい言葉や活動を模索されているんですね。
少し前までは保育園にいた子どもたちですから、学校で授業を受けるというのは大きな変化だと思うんです。授業が楽しい時間になるよう、ゲームを取り入れるなどして、友だちと協力したり、体を動かしたりする活動を積極的に取り入れています。
たとえば漢字の学習で、「お尻で書くよ」「肘で書くよ」と全身を動かす時間を設けたり、「書き順クイズだよ」といって、一人一画ずつ書くようなチーム戦のゲームをしたりしています。これも1年生を担任するようになって意識して取り入れていることの一つです。
-溝田先生と子どもたちがとても楽しく授業をしている様子が伝わってきました。学校でお仕事をされる中で、特にやりがいを感じる時間はどういう時ですか?
子どもたちが一生懸命頑張る姿を目の当たりにした時ですね。これまでできなかったことに挑戦しようとする姿を見ると心から応援したくなりますし、できるようになったと喜んでいる姿を見ると自分のことのように嬉しいです。子どもたちと一緒に成長を喜べる時間に、一番やりがいを感じます。
-印象に残っているエピソードなどがあったら教えていただけますか?
最近でいうと、子どもたちが「生活のめあて」として「喧嘩しないようにする」というのをあげてきたんです。以来、喧嘩が起こりそうになると、代わりに優しい言葉で「〇〇がいやだったよ」「ごめんね」みたいなやりとりで収めようとしている。自分たちで決めた「めあて」を大切にしようと、みんなで声を掛け合っている。そういう姿が素敵だなと感じますし、こういう場面に立ち会えることがこの仕事のやりがいだな、と思います。
「おかえり」と声をかけてくれる地域の大人は家族のような存在

-溝田先生は最初から島根県や益田市で教員になろうと考えていらっしゃったんですか?
島根一択、ほかの場所で働くことは考えていませんでした。高校卒業後は県外に進学しましたが、本当は大学生活も島根で送りたいと思っていたぐらいです。
その中でも、やっぱり私は、匹見が好きで匹見で働きたいという思いが募り、異動を希望したところ、晴れて叶って匹見小に赴任しました。
-島根愛や匹見愛が伝わってきます。特にどのようなところに匹見の魅力を感じますか?
自然が豊かで、一人ひとりが色々な経験をすることができる。小さな地域だからかもしれませんが、子どもたちは素直だし大人もみんな家族みたいで、居心地がいいんです。
匹見小学校に赴任した初日、施設主員さんが「おかえり」と言ってくれました。実はその方は、私が小学生だったころからいらっしゃった方で。
また、児童たちと同じように私も徒歩で通勤していると、地域の方が「さっちゃん、いってらっしゃい」「さっちゃん、おかえり」といったように声をかけてくれます。
-それは嬉しいですね!幼少期から溝田先生のことを知っている地域の方にとっては、子どもたちと同じ、大切に育んで送り出したり迎え入れたりしたい存在なんだと思います。
そうかもしれません。嬉しいですね。余談になりますが、私の名前の「里美」って、父が「美しいふるさとに帰ってきてほしい」という願いを込めて付けたそうなんです。その名前の影響もあって、引き寄せられるように帰ってきたのかな、とも思いますね(笑)
-素敵なエピソードですね!名前に込められた願いが自然と叶っていったんですね。母校でのご勤務ということで、地域と連携した教育活動などをされる際、感じられていることや、考えていることがあれば教えていただけますか?
教員という立場で子どもたちと地域に出るようになり、幼少期にはただ身近な「おっちゃん」「おばちゃん」として親しんでいた人たちから思いもよらない話を聞いたり、仕事に取り組むかっこいい背中を見たりすることが多くありました。
そのたびに、この地で働く人たちの素敵な姿を、子どもたちにもっと伝えたいと感じたんです。地域の人と関わったり、地域について学んだりする時間には、そうした姿を伝え、子どもたちが地域の方から気にかけてもらっていることを実感できるようにしたいですね。
-大人になってから見える世界には、子ども時代とはまた違うものがありますよね。今の匹見の子どもたちは、匹見をどのようにとらえていると感じていらっしゃいますか?
私自身もそうでしたが、生まれ育った場所だからこそ、当たり前にあるものとして、他と比較することもなく、いい悪いの優劣で考えることもなく、ここでの暮らしを楽しんでいるんじゃないかなと思います。
ただ、私が学生だった時以上に、今の子どもたちは、匹見を良くしていこうという思いをもっているように感じる場面が多くあります。自分たちの学校生活をもっと充実させたいといった思いは私も抱くことがありましたが、もっと広い視野で、匹見全体を良くしたいという思いを持っているような気がするんです。嬉しいし、頼もしく感じますね。
「帰る場所はここにあるよ」子どもたちへのメッセージ

-ここからは日々の暮らしについて伺いたいと思います。先生が日常生活の中で楽しんでいることや嬉しいと感じることについて教えてください。
昔からの友人が益田にいるので、声をかけてもらった時は嬉しい気持ちになりますね。一番嬉しいのは、県外で就職をするなどして、地元から離れてしまった友人が帰省した時の再会です。「おかえり」って言えるのが嬉しいんですよ。
-ご友人にとっても、いつでも迎え入れてくれる顔があるというのは嬉しいでしょうね!今後の目標や、やってみたいことがあれば教えていただけますか?
いつもワクワクして生きていたいな、と思っています。最近は、いろいろと新しいことに挑戦しているのですが、そういうことが動き出したときにワクワクするんです。こういう気持ちをいつまでも、それこそおばあちゃんになっても抱き続けたくて、だから、新しいことを始めようとしたり、何かを学び続けようとしたり、それをずっとできる人でいたいと思っています。
-最後に、生徒さんを含め、益田の10代の子たちに伝えたいメッセージがあればお願いします!
私にとって益田や匹見は、帰るとホッとできる場所なので、「ここに帰ってくる場所があるよ。うまくいかないことがあったり、つらいことがあったりしたら、帰る場所は地元にあるんだよ」と伝えたいですね。
子どもたちに、ここに帰る場所があるといつまでも思っていてほしいです。匹見や益田には、子どもたち一人ひとりに深い愛情を注いでくれる大人たちがたくさんいるので、そういう人たちが地元にいるということを覚えていてほしいんです。また、そういう「自分を大切にしてくれた人たち」のことを、大切にできる人に成長してくれることを願っています。
-貴重なお話、ありがとうございました!

文責:益田市地域振興課
文章:一般社団法人豊かな暮らしラボラトリー
