2021年10月25日 (月)

仕事,UIターン者サポート宣言企業

『地域が笑顔で溢れるために』 益田のスーパー「キヌヤ」が取り組む、地域社会への奉仕とは。


 「地域密着」という言葉が多くの地方企業で使われるようになった今、地方企業はどのように地域と関わるのかを模索しています。

 益田にあるローカルスーパー「キヌヤ」も地産地消を推進するため、ローカルブランド(LB)製品を売上の2割に占めるべく、さまざまな取り組みを行ってきました。

 地域が笑顔で溢れるためにキヌヤが取り組んでいることは何なのか。その背景にある、この地域への思いとは。領家 康元社長にお話を伺いました。

本店の「地のもんひろば」の様子

松永牛・椋木畜産和牛が並ぶコーナー


地産地消から地産外消へ


 益田ショッピングセンター店(益田SC店)を訪れると、地産品コーナーの「地のもんひろば」をはじめ、益田製茶のお茶がずらりと並べられたコーナー、益田近郊の海で取れた魚や松永牧場で育てられた松永牛が店頭に並んでいる。地場産品が多いことに加え、益田圏域や浜田・江津・萩などで製造されたLB製品のラインナップの豊富さもキヌヤの特徴の1つだ。

領家社長「他社のスーパーがナショナルブランド(NB)やプライベートブランド(PB)の品を扱っているように、キヌヤもNBやPBの品を売り続けるにはどこかで限界が来る。ならば、地産地消で取り組もうと決め、ローカルブランド(LB)に力を入れることにしました。」

益田周辺の「醤油」がずらりと並ぶコーナー


 ちなみに、写真にある醤油コーナーは、中吉田店店長のアイデアが益田SC店にも採用されたもので、益田近辺で製造された醤油が並ぶ。

 キヌヤの陳列棚を見ると、生鮮食品・加工品・調味料などに益田・浜田といった「産地」が掲載されていることに気づく。

領家社長「わたしたちの商圏は、益田・浜田・江津・津和野・吉賀・萩と幅広い。地域に支えられて商売できるからこそ、益田だけが潤えばいいというわけではなく、他の地域も潤ってもらわないといけんと思っています。」


 全国のローカルスーパーの中でよく聞かれるフレーズに「地域に根差す」という言葉がありますが、LB品の品揃えを多くしたり、産地を応援する取り組みを行うことで地域に根ざしていると感じます。

領家社長「これまでは地元の生産者の売上を伸ばすために、地元で作ったものが地元で消費される『地産地消』の仕組みを作ってきましたが、キヌヤだけではパイに限界があると感じていましたし、益田・浜田周辺にしかキヌヤの店舗がないため、それ以外の地域の方にはネットチラシでしか地元の品を販売できていなかった。しかし、広島で初出店となる高陽店が7月に出来たことで、高陽の店内に山陰の特産品を集めたコーナーを設け、益田周辺や山陰の産品をそれ以外の街で売り出す『地産外商』をスタートすることができました。この地産外商を広げながら、将来的には益田や浜田の産品が地元以外の街で消費される『地産外消』に発展すればと考えています。」


地域社会への奉仕を続けていく


これまでの地産地消の動きを地産外商、地産外消へと進展させていく。
そのために、従業員一人一人が大切にしているキヌヤの社是があります。

『商業を通じて、地域社会に奉仕する』

 地域社会に貢献するという言葉を企業理念で目にすることはありますが、なぜ「奉仕」という言葉を使っているのでしょうか。

領家社長「貢献というのは、上から目線のように感じるし、何かをさせてもらうことで地域の人が喜んでくれる。なぜお客様にサービスをするのかは、奉仕をさせてもらうから。僕が考える奉仕、副社長が考える奉仕、店長が考える奉仕は三者三様だからこそ、ゴールは一緒でもやり方が違ってもいい。だから、自分でやり方を考え、あなたにとっての奉仕が何かを考えて行動して欲しいと年始の挨拶で皆に話しています。」


 それぞれが考えた奉仕を実行する大切さを特に感じたのは、益田駅近郊に大型ディスカウントショップがオープンした5年前だったといいます。

領家社長「売上が下がることは覚悟しましたし、実際、オープン当初はお客さんが向こうの店舗に流れました。ただ、しばらくして、お客さんから『あっちの方が安いけど、地元のものがないけ』と言われ、LB製品を並べていたことが救いになったのだと気づきました。さらに、メインの取引先がそのディスカウントショップと取引することを断っていたことを後から知りました。私たちはお客さんやLBクラブの人に助けられたんです。」

キヌヤが大切にしているモットー「地域が笑顔で溢れますように」


 地産地消コーナーを担う戸津川さんや益田さんが生産者との関係を丁寧に築いていたことも大きかったと、領家社長は話します。そんな領家社長がキヌヤの従業員である上で、大切にしてほしい考えとは何なのでしょうか。

領家社長「素直な人間であること。素直な心になれば、物事の本質がわかる。僕は本質を見たい。ただ、モノを仕入れて売るだけが商売かというとそうではない。仕入れる人やお客さんとの人間的な関係がしっかりしていないと、商売長続きしないと思う。どういう人を求めていますかと質問されることがあるけれど、素直な人・挨拶ができる人と答える。素直でいること、挨拶すること、これが意外とできんのんよ」


素直な心を持った人が集まり、自立的な組織に

 
 素直である人と、素直でない人。

 キヌヤで働く人で得をしているのは素直な人だといいます。それは、分からなければ周りの人に聞き、教えを受けながら成長し、その成長を皆が応援する。聞いた方も得をし、聞かれた側も嬉しい気持ちになるといいます。

領家社長「キヌヤは家族的な雰囲気が魅力で、全体的には明るい。各店舗の雰囲気作りやお店作りは店長に一任しているから、店長の個性がお店作りに表れている気がしますね。」


 もとは、領家社長や本部がお店作りや商品選びを行うトップダウン的な組織でしたが、現場で動ける人を増やすために、店長や現場で働く人を中心とした「自立的に動く組織」に変革している真っ只中だそうです。

領家社長「これまでのままだと本部からの指示待ちで、問題が発生した時に自分たちで解決せんのよね。そういう組織になりかけてると思ったので、一昨年くらいから自立型の組織に変えようと決めて。本部は各店舗の問題解決をするお手伝いのイメージで、店舗で問題があれば、まずは店長の裁量でやってもらい、出来なければ本部が支援をしながら解決する。こうした仕組みに変え始めています。自分の裁量でやろうとすると、自分の責任がある程度重くなるので、考えて行動するようになるわね」


 責任が重くなる分、考えて行動するように伝えていると思いきや、勢いを大切にどんどん挑戦してくれと伝えているのだそう。ちなみに、キヌヤに就職した場合、若い従業員でも裁量権を持って挑戦できる機会があるのでしょうか。

領家社長「生鮮、鮮魚、惣菜のチーフが自分の裁量を生かして、それぞれの持ち場の中でいろいろしなさいと言っているので、挑戦できる機会はあります。実際、商品作りにおいては、惣菜チームが自分たちで考案したメニューを毎月の決算会議で提案し、皆で試食したものが商品化につながっていくんよね。じゃけ、うちの惣菜は一種独特の商品が多い気がします。」


田舎臭さは人の良さ。キヌヤは田舎臭さを大切にする


 今後は、この地域の人々にキヌヤのことをもっと知ってもらいたいのか、あるいは都心部の方にも知ってもらいたいと考えているのか。社長の考えをお聞きしました。

領家社長「地元の人が食べない商品を都会に持って行ってもダメと思うんよね。地元の人が『これは美味い』と言って、食べる物を持っていかないと。最初から都心向けに作りましたという製品にすると、埋もれてしまう。じゃけ、うちで売れている商品を次のステップとして別のところで売っていくという流れじゃね。」


 さらに、話が続きます。

領家社長「この地域の産品ならではの『田舎臭さ』を出したほうがいい。なぜ都心の人が地方に来るかと言うと、自然を欲しているから。地方の人は周りに自然があっても自然の良さに気づかず、都心のビルに憧れていくわけでしょ。商品も一緒で、都心の人に買ってもらうには田舎臭さ、つまり人間味を感じるモノの方が売れると思うんよね。」


 都会に出すことを意識するのではなく、この地域で出している商品を素直に出していく。だからこそ、田舎くさい人間味を感じる製品であることが大切なのだと、領家社長は話します。

領家社長「益田は人がええよね。他所で生活したことがないからそこまで分からんけど、都会には都会の良さがあるし、田舎には田舎なりの良さがある。良さがあれば悪さもあるのは、そこで暮らす人に表があれば裏があるのと同じ。田舎の方が自然が多いから、人と人が関わる上で裏表が少ない気がするわね。」


 自然の豊かさがそこで生きる人をイキイキとさせ、この地域で暮らす人に奉仕したいと思うようになる。益田という環境がキヌヤで働く人のモチベーションになっているのでは、と感じました。


 最後に、これからキヌヤが目指す先をお伺いしました。

領家社長「企業は存続していかないといかんけど、僕たちが存続し続けたいと思っても、周りの人があり続けてほしいと思わないと事業は続けていけんし、そう思ってもらえる企業であり続けてほしいと思う。社是にある地域社会への奉仕を追求し続ける人間の集団でないと、キヌヤは存続しないと従業員には言っているので、地域社会への奉仕をこれからも続けていきます。」

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株式会社キヌヤ
 1951年設立。益田市の本店を中心に浜田、江津、萩、高陽(広島)と島根・山口・広島にかけて24店舗を運営するスーパー。2021年9月時点で、パートやアルバイトも含めると851人が働いている。

 「商業を通じて地域社会に奉仕しよう。」を社是に掲げる。

「益田市UIターン者サポート宣言企業 宣言内容」(株式会社 キヌヤ)
①大学生や若年求職者を対象としたインターンシップを実施します。 
②流通業界未経験の方も2年間の勉強会(Off.J.T)を通じて小売業の理論をマスターして頂きます。


取材:一般社団法人 豊かな暮らしラボラトリー
文責:益田市 連携のまちづくり推進課

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