UIターン者のライフキャリアインタビューでは、県外からUIターンされ、益田市でいきいきと生活されている方を紹介し、自分なりの豊かな暮らしについて考える機会をお届けします。今回紹介するのは、株式会社石見エアサービスの李 季芳(り じぃふぁん)さんです。
李さんが勤めている石見エアサービスは、萩・石見空港開港に伴い、ANAの総代理店として、空港ハンドリング業務及びチケット販売業務を行うため設立された企業です。萩・石見空港の開港で、益田―東京間は90分で往き来できるようになり、人、物、情報、文化の交流が増大して地域振興にもつながりました。“安全性・快適性・定時性”をモットーに掲げる、地域密着型の空港です。企業の詳細は、こちらからご覧ください。
10歳で中国から日本へ
-本日はよろしくお願いします!最初に、これまでのご経歴を教えていただけますか。
李 季芳(り じぃふぁん)です。中国生まれで、両親も中国人です。幼少期、父が仕事のため単身で日本に行くことになり、その後私が10歳のとき、私と母も日本に移住しました。父が東京で働いていたので、私も大学を卒業するまでは東京で過ごしました。大学卒業後、就職を機に島根県に来ました。最初は松江に住んでいましたが、石見エアサービスに転職したことで益田に移り住みました。島根県で就職をして3年、益田に来てからは2年が経ちました。
-最初は東京にお住まいだったんですね。日本に移住された10歳の頃のお話をお聞かせいただけますか?言葉や文化の違いを感じた場面も多かったのではないかと思うのですが、当時はどういう気持ちだったんでしょうか?
当時は子どもだったし、何も分からないまま親についてきた、という感じでした。
移住してすぐ、日本の小学校に通うようになりました。
-すぐ日本の小学校に!大変だったんじゃないですか?
転校生の私に、みんなが近寄ってくるんですけど、何をしゃべっているのか全く分からなくって。私以外には外国人の児童もいなくって、日本人の子と混じって授業を受けました。
-周りの子が何を話しているか全くわからないような状態の時に、日本での小学校生活が始まったんですね。特別な学校ではなく、普通の小学校だということに驚きました。今は日本語が堪能な李さんですが、当時かなり日本語を勉強されたのでしょうか?
日本語については教えてくれる先生も入ってくださって、学校生活の中で勉強を重ね、次第に身につけていきました。日本語の授業を日常的に受ける中で、いつの間にか喋れるようになっていました。
-すごいですね。大学では英米文学を専攻されたとうかがいました。大変なことも多かったと思いますが、何カ国語も喋れるなんて尊敬します。中学校以降の学生生活や、学生時代に思い描いていた将来像、夢などについてもお聞かせいただけますか?
親の趣味が洋画や洋楽の鑑賞で、私も日常的に洋楽を聴く環境にいたので、気づけば英語が好きになっていました。それに、中学校で出会った英語の先生の授業がとても楽しくて。
その頃は、「英語の先生になるのはどうかな」って思っていましたね。また、英語をもっと学びたいと思っていた高校時代に、「ホテルコンシェルジュ」というドラマに出会って、主人公の働く姿に惹かれ、ホテル業界で働く将来像なども思い描くようになりました。
*「ホテルコンシェルジュ」
2015年放映。TBS系「火曜ドラマ」で放送されたテレビドラマ。
-ドラマの影響があったんですね。主人公のどのような姿に憧れたんでしょうか?
お客様の要望に応えようとしたり、お客様の思いに寄り添ったりする姿に惹かれましたね。
「私もこういう人になりたい、人のために何かをしたい、笑顔になってもらいたい」と思いました。
-ホテル業界だと英語も活かせますね。
そうなんです。大学でも英語を専攻しました。イギリスとアメリカの文学について4年間学びました。
お客様の笑顔がやりがいに
-ここまで、学生時代の思い出や、当時思い描いていた将来像についてお話いただきましたが、
大学でいざ就職活動をしようとなったときには、どのようなことを考えていらっしゃったのでしょうか?島根に来るに至った経緯についてもぜひ詳しくお聞きしたいです。
就職活動では思い悩みました。大学3年の時にやりたいことが分からなくなって……。
でも悩むたびに、やはりホテル業界で働きたかったという高校時代の気持ちを思いだしたので、
ホテル業界について調べていたんです。調べている中で、英語を活かせる他の職として航空業界にも興味が湧いてきたのですが、その時はちょうどコロナ禍の影響で採用がなくなったので、もうホテル一本にしようと。それで、松江にある旅館に就職しました。
-それで島根にいらっしゃったんですね。どうして島根での就職を選ばれたんでしょうか?
実は、大学時代から付き合っている方が島根県出身で、地元で就職をしたいと言っていたんです。私の方にも、大学卒業後は東京を出たいという思いがあったので、「それならもう、島根県に行こうかな」と考えるようになって。
-パートナーの方の影響もあって島根県にいらっしゃったんですね!東京と島根では環境も大きく変わったと思いますが、島根で暮らすにあたり、不安などはありませんでしたか?
全くと言っていいほど不安はありませんでしたね。なんとかやっていけるかなと。
実は、東京で感じる「狭さ」とか、誰もが日々忙しそうにしている様子とか、そういったものが少し苦手だったんです。だからこそ、島根での田舎暮らしが楽しみでしたね。
島根で就職先を見つけようと決めて、ウェブで情報を集めようとしているなかで、「ジョブカフェしまね」のウェブサイトを見つけました。そこで紹介されていた企業の中で、一番惹かれた旅館にエントリーし、就職が決まりました。
-「ジョブカフェしまね」!ふるさと島根定住財団の事業ですね。旅館でお仕事をされていた頃の生活やお仕事の内容について教えていただけますか?
シフト制でフロント業務にあたっていました。朝は早いときは7時ぐらいから始まります。
遅番の時は、21時くらいまでですね。朝の仕事はチェックアウトをされるお客様への応対が中心で、その後は日帰り温泉に来館されるお客様やお昼ご飯を食べに来られるお客様の接客をします。15時以降は宿泊のお客様がいらっしゃるので、出迎えや案内をしていました。職場は若い人たちも多く、なじみやすかったです。
-お仕事のやりがいや、印象的な出来事があればお聞きしたいです。
お客様との距離が近い点が良かったです。お客様から観光地について聞かれることが多いので、おすすめのルート等をお伝えしたりもしていたのですが、そのお客様が観光からお戻りになったときに、私が勧めた観光地について、「すごいよかったよ!」って言ってくださって。
そういう言葉をかけていただいたときは、とても嬉しかったですね。
-まさにホテルコンシェルジュですね!お客様に寄り添ってお仕事をされていた様子が伝わってきました。その後、石見エアサービスに転職されて、萩石見空港でお仕事をされるようになった李さんですが、どうして益田で就職しようと思われたのでしょうか?
旅館でのお仕事にもやりがいを感じていたのですが、コロナ禍が落ち着いてきたこともあり、やっぱりもっと色んなことを経験したり、挑戦したりしてみたいという気持ちが強くなってきて。
違うところに行ってみたいと思うようになりました。
それに、先ほどお話しをした大学時代からのパートナーが、益田で仕事をしていたので、いずれは益田に行こうと考えるようになって。大学時代に就職活動をしたときは益田の求人については全然見ていなかったのですが、具体的に転職を考えるようになって調べてみると、「あ、益田に空港があるんだな」って気づいたんです(笑)そこで、航空業界で次の挑戦をしてみたいなと思って、萩・石見空港への就職を決断しました。
小規模空港ならではの学びとやりがい
-かつて興味のあった航空業界でのお仕事が、思いがけず益田で見つかったというのは面白いですね。萩・石見空港ではどのようなお仕事をされているのでしょうか?
グランドスタッフとしてお客様のチェックインや手荷物預かり、ゲートでの搭乗手続きなどをしています。去年の11月からはステーション業務にも関わるようになり、そのための勉強に力を入れています。
-ステーション業務というのは、どのようなお仕事ですか?
ステーションは大きく分けて3つの仕事をしています。1つ目は運航支援業務です。主にパイロットとのやりとりをします。上空のルートの揺れの情報を集めて飛ぶルートや高度のアドバイスをしたり、燃料やお客様の情報、天候等を伝えています。たとえば、天候の変化傾向など、悪天候で雷雲があったりしたときには、乗員さんにその情報提供をして、そこを避けて飛行して下さいというアドバイスもしています。2つ目は作業工程管理です。機内案内の時間を決めたりしています。
3つ目はロードコントロールです。お客様、貨物の重量や重心のバランス調整をしています。
-責任重大なお仕事ですね。先ほど、勉強に力を入れているというお話がありましたが、その業務に関わるには特別な資格などが必要なのでしょうか?
そうですね。航空無線の免許も必要ですし、業務につくための任用試験もあります。
その試験に受かるまでは1人でステーション業務に当たることはできないんです。
この業界にいると、本当に毎日が勉強です。資格試験もあるし、それ以外にもハンドリング(注:航空機運航の地上支援を行う仕事の総称)が変わったり、規定が変わったり……。これは小規模の地方空港ならではだと思うのですが、多くのスタッフが複数業務を兼務しています。色々なことができる面白さがありますが、その分、毎日どんどん新しいことを取り入れていかないといけないので、日々学んでいます。
-小さい空港だからこそ、幅広い業務内容ができる面白さがあるんですね。
はい、大きい空港だと部署がはっきりと分かれているんですけど、ここは事務所も一つだけなので、全ての部署の人と関わることができるし、それぞれの人との距離が近い分、相談がしやすいというメリットもあります。職場の雰囲気もいいんです。
-空港業務で感じるやりがいや楽しさはどのようなときに感じますか?
萩・石見空港には、あまり飛行機に乗り慣れていないお客様も多いように感じます。そこで、そうしたお客様でも安心安全に空港や飛行機を利用できるように、環境を整えたり、丁寧な接客やご案内をしたりするよう心がけています。
最近だとチケットレスサービスで、二次元バーコードを表示したスマホが紙のチケット代わりになりますよね。高齢のお客様の中には、スマホの操作に慣れていない様子の方もいらっしゃるので、その場合は最初から一緒に操作の手順を行うこともあります。お客様からお礼を言われたり、「助かりました」って言われたりすることがあると、やりがいを感じ、モチベーションにつながりますね。
また、飛行機を時間通りに出発させるには、各現場のスタッフ同士の協力が不可欠です。
全員でチームとして一丸となって、一便一便を安全に、定刻で飛ばすという達成感を味わえることもできます。
グランドスタッフとしての接客業務以外だと、委員会での仕事にもやりがいを感じています。
私は今、カスタマーサービス委員に所属しているのですが、季節に応じてカウンターの装飾をしたり、お客様からのアンケートに基づいて、空港をより過ごしやすくしていくための策を協議したりしています。今年度は、七夕やハロウィン、クリスマス、正月などの装飾を作りました。空港で楽しい時間をお過ごしいただけるように、かなり頑張って飾り付けているんです。
自分ペースでのんびり過ごす
-普段あまり知ることのない空港でのお仕事について、興味深いお話をありがとうございました。ここからは益田での暮らしについてお聞きしたいのですが、実際に生活をしてみて、益田という地にどういう印象をもたれたのでしょうか?
島根の中でも自然が多いように感じています。どこにいても山が見えますし、とても静かで、自分のペースでのんびり暮らすことのできる場所だと思います。私はいつも山々や田んぼの風景に癒やされています。それに、食べるのが好きなので、益田には美味しいご飯屋さんが多いのも嬉しいポイントです。ランチやディナーが楽しめるお店を、開拓してきました。
-たしかに!益田って素敵なご飯屋さんが多いですよね。他にも益田の魅力を感じることってありますか?
実は都会に出やすいというところですね。自然が豊かなのに、山口も広島も近いし、何より空港があるから東京が一番近い。都会にすぐ行けるということは、視野が広がることにもつながるんじゃないのかなって思っています。
-最後に益田の10代の子たちにメッセージをお願いします。
今はインターネットで様々な情報が入ってきますし、色々なところに出ていきたいと思う子も増えているんじゃないかなと思います。そうした思いを大切に、自分のやりたいことを見つけて、それに向けて挑戦したり、実行したり、怖がらずにやってほしいですね。場所にこだわらずに、今の自分にしかできないことをやってください。私は今までそうしてきましたので、後悔はないですし、毎日楽しく幸せに暮らせています。自分がやりたいことが見つかったら、それに向かって突き進んでいってほしいと思います。きっとできます。
-貴重なお話ありがとうございました!
「益田市UIターン者サポート宣言企業 宣言内容」(株式会社石見エアサービス)
①ほどよく休み、しっかり仕事、すっきり帰宅!をめざします。
②有給・育児休暇が取得しやすい環境をつくります。
③インターンシップや職場見学を積極的に受け入れます。
文責:益田市連携のまちづくり推進課
文章:一般社団法人豊かな暮らしラボラトリー