今回の登場人物:
ニュートン理奈さん
東京の振興住宅で育ち、20代、30代はバックパック旅やワーキングホリデーをして過ごしていた。東京での生活が長くなった頃、自然に近い生活に憧れ、WWOOF旅を利用。イギリス出身の旦那さんと全国の農家を南から渡り歩き、たまたま落ち着いたのが島根県益田市の二条地区だったそう。当時は地区で唯一のIターン家族、今では息子さんを加えた家族3人で暮らしている。
横関亜季さん
広島県内の転勤族時代を経て、空き家BANKで見つけた古民家をきっかけに、島根県益田市の二条地区に移住。現在は3人の娘たちとの賑やかな生活を送っている。日中の娘たちを保育園に預けている間は、周辺地域の小さな第一次生産業で研修を受けたり、家の畑をしたりと、活動的に動き回る。(過去の参考記事)
「ここを選んだ理由か・・・なんかここでいいかなって思ったからかなあ。人生一回きりだし、今のうちにやってみたらいいかなあと思ったの。
『とりあえずやってみようかな』『なんとかしよう』って。」
四季折々姿を変える、山の恵みに抱かれた二条地区。県境(島根県と山口県)、町境(益田市と津和野町)に位置する、人口400人弱の小さな村です。
全国的な知名度が特別高い訳でもないこの地域ではありますが、ここに食を中心とした自然と距離の近い生活を求め、たどり着いた二組のIターン家族がいます。
亜季さん
不安なこともあったけど、知らない世界っていっぱいあるなあと思って、田んぼや畑をやったりする生活を一回くらい経験してみたいと思った。
理奈さん
そう思っていても、色々な費用が高いと失敗できないよね。私は夫が出身のイギリスの田舎とかも検討したけど、高くて現実味がないなあって。それでたまたまタイミングよく出会ったのが、二条だったのかも。
亜季さん
お互い経緯はちょっと違うけど、タイミング的に「なんかここでいいや」っていうのが決め手なのは一緒だよね(笑)
家族ぐるみの付き合いになった今では、全校生徒が20人未満の同じ学校の保護者同士としても、共有の経験や考えを持っています。
亜季さん
こういう場所での子育ては、もちろん思い通りに行かないこともあるんです。けど、住めない理由は特にないし、逆に小さい地域だからこそ、私にとっても、子どもにとっても意外とできることも多いなあと思う。
理奈さん
うんうん。せっかくだから、子どもたちには二条でしかできない体験をさせてあげたいよね。
偶然にも二条地区に行きついたお二人を、この地域に留める理由とは何なのか。対談を通して、ヒントを探ってみました。
共通点は、「食への貪欲さ」?
− お二人にとっての初めての田舎暮らし。たまたま同じ地域にたどり着いた訳ですが、もともと田舎のゆったりした雰囲気や、自然、農業が好きだったんですか?
理奈さん
私はね、オーストラリアにワーキングホリデーに行ったことがきっかけ。たまたま大農園で仕事をするワーキングホリデーに行った友達がいて、楽しかったって言ってたから、そんなこと一切やったことなかったけど、好奇心で行ってみたの。
トマトの収穫をして夜は同じワーキングホリデーにきてる仲間達と隣のバーに飲みに行くっていう、若かったからこそできたようなちょっと変わった体験だったんだけど、その生活が楽しかったから、しばらくは東京でフリーターと海外旅行とかワーキングホリデーを交互にやる生活を続けていたよ。
亜季さん
すごい冒険家だよね〜!
そう考えると、私はちょうど就職氷河期世代だったっていうのもあって、安定志向の進路を選んでるような高校時代と社会人時代だったかな。育ちも広島のニュータウンで、山は近かったけど、自然っていうと・・・桑の実を食べていたくらいかなあ。
− なるほど、じゃあお二人とも子どもの頃から自然と触れ合っていた、という訳ではなく?
亜季さん
そうだね〜それはあんまりないかな。でも多分変わらないのは、私たち二人とも食べ物に貪欲っていうところかな(笑)山にブルーベリーを採りにいったら、近くでバッタリ遭遇することもあるよね。『理奈さん、やっぱり!』って理奈さん
そうそう(笑)他のお母さんたちも一緒に、『山桃できてるらしいよ、もちろん採りにいくよね、タダだよ?!』って一緒に行ったりもするね。
「とりあえずやってみよう」が叶う
− 他にIターン家族が多くないこの地域に、しかも身寄りもいなかったこの場所に移住というのは・・・
理奈さん
うんうん、まさかね、って感じだよね。
亜季さん
私は広島からも遠すぎないしって島根県を選択肢に入れた時、たまたま空き家バンク(※1)で見つけたのが、二条の家だった。来てみたら、先輩移住者の理奈さんもいたし、不動産屋さんもいい人だしで、不安なこともあったけど、とりあえずここでいいかって。
− 移住当時の二条の印象ってどんな感じでしたか?
理奈さん
私が移住したのはそのもっと前で、二条にはまだ外からの移住者がいなかった頃だった。正直私は何も期待してなかったんだよね。
そしたら、思ったより助けてもらえて、お隣さんがしょっちゅう野菜を持ってきてくれたり、公民館長がおすそ分けをしに来てくれたり。びびったよ〜! それに、 うれしかったかな。
亜季さん
田舎!キラキラ!って感じではないけど、やりたいことがあったらそれを実現できる環境だなあ、と思ったかな。
畑付きの家だったし、途中から田んぼもやるようになったよ。
理奈さん
そうね〜。でも、私はその当時、夢いっぱいでね。東京から友達が来てくれて畑の開拓を一緒にやったよ。だんだん庭ができてきて、きれいになって、畑も鶏も始められるようになるのが楽しかったなあ。
亜季さん
本当に自分次第で、応援してくれるよね。
何かあったら、時々隣町に越境すればいいし。そういう選択の自由があるのは良かったなと思った。そうやって行ったり来たりしてると、同じところに住んでいても、外から見た二条地区の魅力もわかって、なんだかちょっと気が楽になる。そういうことも含めて、二条は自由にさせてもらえるよね。やりたいことを自分でつくれる場所だと思う。
空き家バンク※(1): https://akiyabank.masudanohito.jp/
大人も子どもも一緒に。生死が巡る自然から学ぶこと
− ここまでは個人的な理想や憧れについてお話しくださいましたが、今となってはそれぞれ一児と三児の母親であるお二人。親として、二条の暮らしについて思うことはありますか?
理奈さん
私は、移住当時はまだ子どもはいなかったんだけど、息子が生まれてからは、よく一緒に畑やったなあ。小学校にも畑があって、お米づくりも少しさせてもらえるしさ。そんな学校なんて、そうそうないだろうに。
亜季さん
そうね、家で畑をやっていれば、自ずと母さんがどこで何を育ててるか知ってて。
だから、娘に『なになにとってきて〜』って言ったら、葉っぱで見分けて持ってきてくれるもんね。
理奈さん
その野菜の旬とか、大変さも分かってもらえるよね。スーパーでは売ってるけど、本当は冬にトマトなんて食べれるもんじゃないんだよっていうこともだし、こんにゃくや味噌も、実は大変な思いをして作ってることがわかる。
亜季さん
母さん最近、柿めっちゃもいどるなとか、よく見てるよね〜。
− 親が何か教えなくても、勝手に自然との付き合い方を覚えているんですね。
亜季さん
本当そうだよ〜!
次女は、家で飼ってる鶏を愛でてるけど、最近(取材時は秋)カマキリにハマってる。
勝手にカマキリとかアブとかなんか捕まえて、ペットみたいにしてね。
理奈さん
かと思ったら、地区内の葬式もあったり。生死を特に近くに感じることがすごく多いんじゃないかな。
亜季さん
かわいそうな生き物と、死んでもかわいそうじゃない生き物。どっちも身近にいて、目の当たりにできるっていう経験は大切だと思う。それを飛び越えて、ゲーム内で死と触れると、現実味がなくなっちゃうよね。
理奈さん
最近は色々な最新機器を使った遊びがたくさんあるけど、せめて子どもたちがちっちゃいときは、”本物”に触れて欲しい、と私も思う。息子は今、小学校高学年で、段々遊び方が変わってきて寂しく感じる部分もあるんだけど、この先、都会に行ったとしても、あんまり心配はしてないの。幼少期を二条で過ごしたから、大事な感覚は忘れないんじゃないかなって思って。
− そんなお二人は地域の小学校の放課後活動を運営されていますよね。
理奈さんと亜季さんにとって、この週一の「ボランティアハウス(※2)」はどんな場ですか?
理奈さん
子どもと一緒に大人が楽しいことをやる。そんな場所だと思ってます。
時々地域の人や、地域外の人にも手伝いに来てもらって、お菓子を作ったり、新しい遊びをしてます。でも、多分子どもたちは大人たちと遊んでもらえるだけで楽しんでると思って。
亜季さん
うんうん。私も一緒で、ただ楽しいから行ってるもん。子どもたちには色々な体験をさせたいし、子どもを通じて自分も体験したい。これからは何してみようか?紙芝居屋さん呼んだり、地域の場所を貸し切って、小さなお祭りとかやりたいね!
(※2)ボランティアハウス… ボランティアハウスとは、「つろうて子育て」(地域の宝である子どもを地域ぐるみで育む)という基本理念に基づき、日頃から群れて遊ぶことや異年齢とのふれあいの少ない子どもたちに地域の大人が知恵を出し合い、放課後を健やかに過ごせることができる居場所 (益田市HPより)
ここでしかできない、”本物”に触れられるような経験。
これが子どもたちのためにもなる、そう納得感を持って言えるのはきっと、
お二人自身が日常の中で、こういった経験を繰り返し行っているからこそなのではないでしょうか。
「草刈りさえできれば移住できるから!」
「気楽に来てもらって、仲間が増えたらいいよね。」
「何かやろうと思ったらやれる環境」は、人それぞれの暮らしをデザインする大切なキーワード。
この記事を読んで、少しでも実現してみたかった理想が思い浮かんだ方は、現地に足を運んでみると、新しい発見があるかもしれません。
取材:一般社団法人豊かな暮らしラボラトリー
文責:益田市連携のまちづくり推進課