内閣府の子供・若者白書(令和3年版)によると、
ほっとできる場所、居心地のよい場所が職場にあると感じている人は35.1%、家庭に居場所があると回答した人は75.6%、地域に居場所があると回答した人は53.3%という結果が出ている。また、同資料によれば、居場所の数が多ければ多いほど、自己肯定感や現在の充実感、将来への希望が高まっていることが示されている。
今回取材を行った、株式会社 三建技術の石橋 昭典さんは、仕事と家庭だけでなく、地域にも居場所を作ろうと、自分なりのペースで行動を重ねていらっしゃいます。居場所が増えていくうちに、益田での生活にも変化が生まれた石橋さんに、この会社で働くまでに至った経緯や仕事でのやりがい、仕事以外の時間の過ごし方などをお伺いしました。
長男としての使命
石橋さん わたしは生まれも育ちも益田市安富町で、大学時代を山口で過ごし、福岡で社会人生活をスタートさせました。
新卒で就職した会社は、学生時代から学んでいた食糧生産・農業系の会社でした。その会社で新商品の開発・製造などの仕事を10年していたのですが、三人兄妹の長男ということもあり、自分が益田に戻って、実家の両親や祖父の面倒を見なければいけないのではという気持ちがずっとありました。
30歳を過ぎたタイミングで、将来益田に戻って転職するにも、このタイミングを逃すと転職したくても難しいと思うようになりました。そのため、Uターンに向けて動き始めました。
Uターンすると決め、今の会社とは別の会社に内定が決まっていたそうですが、石橋さんの親族が三建技術で働いていたこともあり、この会社に転職を決めたそうだ。
石橋さん 11月入社なので、この会社で働き始めて4年目に突入しました。
わたしの主な仕事は、事前調査です。
工事になると重機が地面を掘り返すこともあり、家屋に振動等による損害を与える可能性もあるため、公共工事が入る前にはその場所を事前に調べ、家の内部や外部の損傷を細かく調査し、写真におさめています。もし、工事中の振動等で壁にヒビが入ったり、建具の立て付けが悪くなったりしたときに、事前に現地の状況を確認しておかないと、何が原因かわからなくなってしまうため、客観的な資料作りとして事前調査を行っています。
この仕事を怠ると最悪の場合、工事がストップすることもあるので、近隣住民の方と円滑に工事を進めていくためにも、建設会社とは異なる第三者として調査に入っています。
事前調査が必要になるのは、近隣に住宅が立ち並ぶような場合だという。そのため、事前調査が発生する公共工事に立ち会うのは、一生に一回あるかないか…と石橋さん。事前調査にあたり、何か必要となる資格はあるのでしょうか。
石橋さん 建物を建てる側だと、幅広く専門的知識が必要になりますが、事前調査の仕事は、専門的な知識はそこまで求められないので、わたしのように中途入社だとしても、少々の専門的な知識を身につければとっつきやすい仕事だと思います。また、この会社は自分のペースで働くことができますし、分からない時に相談しやすい環境が整っているので、仕事はしやすいなと感じています。
専門的な知識は求められないと石橋さんは話されていたものの、建設コンサルタント業は、専門的な知識があることで仕事がしやすくなるため、会社として資格取得を推奨しています。資格があると、業務を安心して任せられたり、給与にも反映されたりするのだそう。そのため、石橋さんも測量士の資格を取得したといいます。
なくてはならないものに関わる
現在は調査設計課での業務で、橋の点検などが主な仕事。インフラとして生活に欠かせない橋も多く、市町村からの依頼で動くことが多いのだそうです。
石橋さん 橋はコンクリートや鋼で構成される構造物なので、使用状況や環境により劣化するため、市町村からの発注業務で橋の点検をし、どういった状況なのかを調査し報告します。また、橋の設計をすることもあり、どういった形で直せば以前のような状態に近づくのかを設計し、成果品を納める仕事もしています。
もしも橋が使えなくなると、迂回したり、渋滞が起きたりと日常生活に影響が出ますし、生まれてからすでにあった橋は、あって当然と思ってしまう。それがなくなったり、通れなくなるって普通は考えられないですよね。なので、そうならないように、橋の点検業務を私たちのような会社が調査、設計、補修をしています。
地元とのつながりを作るために
「地元に戻らなければ」という気持ちで始まった第二の益田生活も、仕事に慣れ始めたことで、仕事以外の時間で地域への関わりや趣味の時間が充実するようになったと石橋さんは話します。
石橋さん 安富町での暮らしは、人が減ったくらいで、家並みも変わっていませんでした。
益田に戻ってきてからは、お宮の祭りごとに去年から手伝いで関わり始めました。実際にどんなものなのかと思いながら関わっていますが、休みの日に半日出るか出ないかくらいの負担なので、これなら関わり続けられそうだと思っています。地元同士の交流も意味合いとして含まれているので、戻ってきた以上は、地元とのつながりを持ち続けたいと考えています。福岡にいた時は、休日に道端の掃除をしているなと思っていたものの、地区に属していないから参加しようという気持ちではありませんでした。しかし、今になって思うと、参加するしないは抜きにして、地元にいる以上は顔を出して活動すべきという気持ちがはっきりあります。
心情が変わった理由としては、地元に帰ってきて、地元にいるという認識。そして、地元の同級生が戻ってきていないという事実があったからですかね。つながりがなければ、新しいつながりを地域の中で作っていく。祭りごとに関わりはじめたことは、自分自身がつながりを求めていたからかもしれませんし、地元の同級生から誘われて加入した消防団もそうだと思います。
自分にちょうどいいサイズで
地元や地域への関わり度合いは、人それぞれでいい。
今の自分のサイズにあった形で地域に関わる人が増えていけば、地域づくりの在り方は変わっていくのではないだろうか。
石橋さん 今はこれぐらいがちょうどいいかなと思いつつ、少しずつ広げていければと思います。
益田に戻ってきてからは、ここで両親と生活するにはどうすればいいのかという考えにシフトし、この地域との関わりやそこに住む人との交流を考える気持ちに変わりました。どこに出掛けようかという選択肢は減りましたが、仕事以外の趣味や地域の時間などは増えたように感じます。
そう語るように、石橋さんは休日の日は体を動かしたり、細々とやっていた釣りを本格的にはじめたりとしているんだそう。仕事も趣味の時間も共通していたのは、「とりあえずやってみよう」という精神を体現しているように思えた。
石橋さん 意識して頑張ろうとすると疲れてしまうので、今自分の手に届く範囲でないと、やり始めたことも続かないような気がするんですよね。だから、続けることを前提にいろんなことに取り組んでいます。
祭りごとも消防団の活動も、頻度の方はすごく多いわけではないので、だから続けられるのだと思います。イヤなことがあったら続けたいと思わないでしょうし、続けないといけないと思うと続けるのがしんどくなる。だから、これぐらいだったらというものを持っておくことが大切だと思います。
最後に、この先の石橋さんの目標などを伺いました。
石橋さん 仕事も私生活も充実しつつあるところですが、結婚もしたいですね。ただ、結婚をしたあとに何を目指したいのか現段階では明確にないので、今やっていることの質を高めることに意識を向けていきたいです。
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石橋さんのように、働きながらも自分ができる範囲で地域に関わるというスタンスは、地域とつながるためのヒントになるのではないかと思う。豊かな暮らしを体感できる益田の暮らしを次世代へつなぐ。そのために、わたしたち一人ひとりにできることを考えていきたい。
取材:一般社団法人 豊かな暮らしラボラトリー
文責:益田市連携のまちづくり推進課